北朝鮮の核実験場周辺で「放射能汚染の噂」が拡散

北朝鮮の北東部、豊渓里(プンゲリ)にある核実験場周辺では、以前から放射能汚染の噂が絶えない。実際に被害を訴える声も出ている。

聯合ニュースは昨年9月、韓国の統一ビジョン研究院が咸鏡北道(ハムギョンブクト)吉州(キルチュ)出身の脱北者17人を対象にして健康状態に関する聞き取り調査を行ったところ、複数の脱北者が原因不明の体調不良を訴えたと報じた。

「じっとしていても汗が出て、いくら食べても力が出ず頭痛が続く。韓国に来てから吉州で流行っていた『幽霊病』が核実験のせいだとわかった」 (3回目の核実験実施まで吉州に住んでいた脱北男性)

「2010年頃から視力が1.5から0.8に落ちた。疲れやすく不眠に苦しめられている。心臓が痛く、つかみ出したくなるほどだ。(北朝鮮で)病院に行ったら『幽霊病』だと言われた」 (2回目の核実験実施まで吉州に住んでいた脱北女性)

吉州の中心から核実験場までは40キロ以上離れており、山に遮られている。しかし、吉州を流れる南大川(ナムデチョン)の源流が核実験場のそばにあるため、水を通じて汚染されているという噂が絶えない。当局はそれを抑えようと様々な対策を取っていると米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えている。

現地の情報筋がRFAに語ったところよると、北朝鮮当局は吉州郡と化成(ファソン)郡を統制区域として指定し、部外者の立ち入りを禁止した。「わが国の核技術を盗み出そうとするスパイ、敵対分子の策動を防ぐ」ことを理由に挙げている。

しかし、核実験から2ヶ月経っても統制が解除されないため、住民の間では「スパイや敵対分子は言い訳に過ぎず、実際は放射能汚染が深刻だからではないか」との噂が絶えないという。

北朝鮮当局は専門家を派遣して調査を行わせ、その結果を示して汚染されていないと何度も説明した。また、住民にアブラハヤ(コイの一種)を捕まえさせ、南大川に放流させた。前述の専門家の「この魚は汚染に敏感なので、川が本当に汚染されていれば死んでしまうだろう」という説明に基づくものだ。

アブラハヤが比較的きれいな水を好むというのは事実だが、地元民にはあまり説得力がなかったようで、噂を抑え込むには至っていない。

最近、国境地域を訪れた吉州の住民によると、当局は外部の人間の立ち入りを制限しているが、内部の人間が他の地域に行くことは制限していない。当局は「本当に汚染されているなら出るのも入るのも禁止する」と宣伝している。しかし、これもあまり効果がないようだ。

なお、上述の情報筋の話は先月29日時点のものだが、テレビ朝日が報じた、先月10日に起きたとされる核実験場の崩落事故がついては触れていない。

核実験場の近くには、悪名高き政治犯収容所「16号管理所」(化成強制収容所)があり、政治犯が核実験施設で防護服なし、すなわち放射能に被曝しながら強制労働させられていると言われている。死亡事故が起きれば遺体は放射性廃棄物扱いされ、収容所内でも「一度入ったら二度と出られない」と言われる完全統制区域に埋められるという。

つまり、核実験場の労働者と吉州の一般住民は接触する機会が限られているため、情報が伝わりにくい可能性がある。

ちなみに、韓国統一省の報道官は豊渓里出身の脱北者を対象に、放射線被曝の調査を行っていることを明かしている。

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