【トップインタビュー 日立金属・平木明敏社長】営業改革で部門間連携加速 「モノづくり改革」も着実に進展

――17年4~9月期連結業績は増収増益だが、調整後営業利益は322億円。通期予想800億円を変えていないが、どう達成を。

 「需要は好調で当社の志向する高機能材料、環境親和型商品が市場ニーズに合致して、大半の工場はフル稼働状態にある。その割に上期の収益が少ない原因は大きく三つあり、それぞれ手を打っている」

日立金属・平木社長

 「一つは世界首位の製品である自動車エンジン排気系用耐熱鋳造部品『ハーキュナイト』だ。技術問題が不採算の原因だと考えてきたが、モノづくり改革で合格率(製品歩留まり)が上がったにもかかわらず採算が改善していない。3年ほど前に当時の方針で受注した価格水準に問題があり、この是正をお願いせざるを得ない。急激な増量対応で機械加工費やエア代(航空運賃)もかさんでおり、7~9月期からお客様と価格、数量に関する折衝を始めた。来年3月までにハーキュナイトの赤字状態を解消する」

 「二つ目はアルミホイールの数量減と米国生産拠点のAAPの工場運営の課題だ。数量減は米国乗用車需要の減少が要因だが、3年ほど前に収益率の高いアイテムに特化しようとした方針も拍車を掛けた。受注方針を現在の全カンパニー共通指標である『限界利益の総和の最大化』に見直したとはいえ今期の数量は増えないが、AAPのモノづくりは改善する。鉄鋳物世界最大手のワウパカ社のマイク・ニコライ社長が10月からAAP社長を兼務。その前からモノづくり改善に取り組み、10月からアウトプットを増やしている」

 「三つ目はコバルト価格の急騰など原材料価格上昇だ。一部のフェライト磁石の取引でコバルトなどのメタルクローズ(サーチャージ方式の値決め)を適用していなかったので、お客様にご採用をお願いし、ご了承いただいている。資材、燃料費も大幅に上昇し、特殊鋼製品を中心にベース値上げもお願いしている。来年1~3月期には相当効いてくる」

――現行中期計画では18年度に調整後営業利益1千億円を目指している。

 「先ほどの三つの課題への対策が来期は冒頭から効くので、現状の需要量を前提とすると、900億円は見えている。残る100億円は戦略投資による新設備の稼働に懸かっている。今の悩みは磁石にせよ特殊鋼にせよ生産能力が足りないことだ。特殊鋼の要員体制の拡充なども図るが、新設備では18年度に熊谷の磁石の革新ラインや安来の1万トン自由鍛造プレスなどが動きだす。固定費の上昇以上に限界利益を拡大する受注を獲得することが非常に重要になる」

――16年度から全社モノづくり改革、17年度から全社営業力強化プロジェクトを進めている。進ちょくや手応えは。

 「営業改革は当初から『即効性がある』と言ってきたが、スピードもマインドも想定以上に進ちょく、浸透している。私も国内30社のお客様を訪問し、『カンパニーごとの対応ではなく、全社で横串を通してお客様に貢献します。技術会議もその切り口でやりませんか。次世代の研究開発でGRIT(グローバル技術革新センター)の建屋を来年4月に熊谷に開設しますが、日立金属の全貌を明らかにする場でもあります。お越しいただいて、新しい商談や新製品開発をやりませんか』と申し上げてきたし、賛同を頂いている。下期は海外のお客様も回る」

――モノづくり改革は。

 「現場改革と技術革新が両輪であり、現場改革はグローバルな文化になりつつある。アセアンのグループ工場では『2S3定』の合同ミーティングを3カ月ごとに開催している。現場のきれいさを維持するには技術力が必要であり、それは収益にも直結する。その認識は相当浸透している」

 「技術革新は時間がかかっているが、ハーキュナイトでも進んでいるし、熊谷の磁石の革新ラインでも新しい拡散材の量産技術を投入する。着実に進んでいる手応えはある」

――社長就任以降、各拠点でタウンホールミーティングを積極的に行っている。

 「上期はグループの国内工場で2カ所行けなかったが、他は全工場と営業所を回った。下期は海外中心に回り始めている。質疑応答ではかなり活発に発言してくれる。一例を挙げると、海外で『xEV分野に軟磁性部材を売り込むためにGRITで勉強したい』『自ら知見を持って設備自動化を進めるためにGRITで勉強したい』、国内で『老朽更新を含めた設備投資を本当にやりますよ』『設備部門も増やしてほしい』といった声が出た」

「資料・会議の半減」実現/製販の「最前線」強化

――全員が前向きな仕事できっちり成果を出そうということで「資料半減・会議半減」を掲げてきた。手応えは。

 「ほぼ半減したと感じている。残業や休日出勤は減っているし、何より社員の顔色が良くなっている」

――新卒採用も伺いたい。来春は総合職約80人と久々の人数になる。

 「従来は小さな工場にも新人を配属していたが、安来、熊谷、茨城の3工場に大半の新人を入れ、きちんと研修してから他工場に配属する。事務系の半数は女性で、営業志望の女性は営業統括本部に配属した上で工場に送る。また入社前に配属先を本人に知らせる。人材の採用と教育が最大の課題であり、来年度から最低でも5年以上はこのやり方を続ける」

 「工場、営業のフロントラインの強化では、本社からも人を送る。来春には本社部門の一部を工場、営業に配転する。本社はカンパニーの垣根をより取り払っていきたい」

――先日の決算会見で磁石の事業規模を1千億円から2千億円へ、軟磁性材料は300億円から1千億円へなど、非常に大きな成長見通しを示した。

 「xEV需要などで明らかに成長する事業、製品は、高い目標を定めて達成に取り組んでこそ大きく伸ばせる。そのことを明確にすべきだと考えた」

――日立電線の合併から4年余が経過した。率直にどんな考えを。

 「4年は熟成に必要な期間だったと思う。日立電線は工場の構え方も立派だし、人材教育もしっかりしていた。銅はトレンディーな製品として注目されているし、電線事業と他事業のシナジーへの期待も高まっている。統合して本当に良かった」(谷山 恵三)

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