NPB目指す独立Lの選手たち 元プロのコーチが秘めるスカウトへの切なる願い

徳島インディゴソックス・鈴木康友コーチ【写真:篠崎有理枝】

鈴木康友氏が語る独立リーグの環境、スカウトへの切なる願い

 先月26日にプロ野球のドラフト会議が行われ、今年も独立リーグから多くの選手が指名された。四国アイランドリーグplusの香川オリーブガイナーズから中日に入団した又吉克樹投手など、近年は独立リーグ出身の選手がNPBで活躍しているが、今シーズンから四国アイランドリーグplusの徳島インディゴソックスでヘッドコーチを務める鈴木康友氏は、NPBのスカウトは、独立リーグの選手がプレーする環境面も考慮して欲しいと訴える。

 今年で58歳を迎えた鈴木コーチは現役時代、巨人や中日、西武で内野手として活躍。引退後は西武や巨人、オリックス、楽天、ソフトバンクなどでコーチを歴任し、BCリーグの富山サンダーバーズでも監督を経験した。

 NPBと独立リーグ両方の練習環境を把握している鈴木氏は、現在指導している選手たちの伸びしろについて思うところがあるという。たとえば、今秋のドラフトで中日から育成1位指名を受けた徳島の大蔵彰人投手。愛知学院大から入団した1年目の23歳は体重を14キロ増やし、球速も140キロ前後から147キロまで上がった。しかし、鈴木氏はNPBの整った環境でトレーニングをさせれば、投手としてもっと伸びると考えている。

「独立リーグの選手はアルバイトをしながら自炊しています。食費も切り詰めなくてはいけないため、インスタントのカレーを朝、昼、夜と食べている子もいる。大蔵も貯金をはたいて食べ、体を大きくしましたが、たんぱく質を取って、プロテインを飲んで、いい環境でトレーニングをさせたら、さらに伸びる。そういう選手を見極めてほしいです」

 鈴木氏はそう力を込める。

投手よりもNPB入りが難しい野手

 大蔵のチームメートで西武からドラフト3位指名を受けた最速152キロの18歳右腕・伊藤翔も、高校3年までは140キロ前後しか球速が出なかった。しかし入団後、数か月で10キロ以上速くなったという。専門的なトレーニングを重ねれば、まだまだ体も大きくなり、球速も上がると鈴木コーチは見ている。

 また、徳島で今年のドラフトで指名されたのは投手だが、独立リーグの野手は投手に比べて指名されることが少ない。投手は週1回のローテーションを守って投げさせれば、独立リーグでもある程度成長するが、野手はノックの量もNPBの選手に比べ20分の1ほどで、かなりの練習量を積みアピールする必要があるのだという。

「ソフトバンクの3軍の選手は、朝から晩まで練習ができ、ボールも機械が勝手に投げてくれます。タブレット端末も配布されており、相手の投球も研究でき、自分のバッティングの映像も見られます。それに比べ、独立リーグの選手は球拾いから自分でやらなくてはいけない。野手でNPBに行こうとするなら、それを補う練習をし、試合経験を重ねなければいけません」

 鈴木氏は独立リーグの環境面の厳しさについてそう説明する。

 一方で同氏は野手でも走攻守のうち2つ備わっていればNPBで成功する可能性があると考えている。例として挙げるのは昨季までDeNAでプレーした内村賢介内野手だ。鈴木氏が富山で監督を務めていた当時、石川ミリオンスターズに所属していた内村のプレーに一目置いていたという。

鈴木氏から見て「NPBの1軍クラス」の力を秘めていた内村

「3拍子揃った選手はなかなかいませんが、内村は守備の時のボールさばき、走塁の身のこなしはNPBの1軍クラスだと思いました。そういう選手もたまにいます。あとは1年間、1軍で通用する選手になれるか。それはNPBで成長できるかだと思います」

 内村はその後、2007年の育成ドラフト1位で楽天に指名されると翌2008年には支配下契約をつかみ1軍デビュー。昨季、DeNAを戦力外となるまでNPB通算9年で596試合に出場。打率.246、1本塁打、97打点、100盗塁の成績を残した。

 野手でもNPBで通用する潜在能力を秘める選手はいる。あとは、いかに力を伸ばし、NPBのスカウトにアピールするか、だ。鈴木コーチは、NPBを目指す選手たちに独立リーグの結果で満足するのではなく、相手を圧倒しなければだめだと伝えている。そして自身はそんな選手たちを手助けしつつ、スカウトには選手のポテンシャルを見極めてほしいとも切に願っている。

 独立リーグからNPB入りした選手が、今後どのような活躍を見せるのか。鈴木氏も教え子たちの活躍を楽しみにしている。

(Full-Count編集部)

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