<大ヒット盤> 山本彩『identity』 緩急ある歌声は1本のドラマを観るよう

山本彩『identity』

 2ndソロアルバム。1年前の1stは、作詞・作曲もこなすマルチぶりが話題だったが、本作では着実に進化している。

 全13曲の前半は、シンガーソングライターぶりが光る。爽快に駆け抜けるような『JOKER』から、パワフルな『Let's go crazy』、ミディアム調の『サードマン』まで、曲調も歌詞の情景も多様なロックだがサマになっている。

 後半は、歌手としての成長ぶりが目覚ましい。阿久悠の未発表詞に、いきものがかり・水野良樹が曲をつけた『愛せよ』では、硬派な詞に沿った真摯な歌声を聞かせ、阿部真央提供の『喝采』では、巻き舌を交えて心の葛藤を叫ぶ。

 圧巻は、作詞・作曲の水野が自身の『YELL』と『歩いていこう』をエエトコドリした(?)壮大な『春はもうすぐ』。緩急のある歌声により1本のドラマを観るようだ。

 本田美奈子や河合奈保子など、音楽面でも強い個性を放っていた昭和のアイドルファンにもオススメ。本作を聴けば、出自に関係なく頑張る人を応援したくなるはず。

(lough out loud・2800円+税)=臼井孝

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