北の核も拉致も

 上着の内ポケットに男が手を突っ込んでいる。懐にあるのは飛び道具かもしれない。おもちゃの銃かも。いや、本当は何もないのかもしれない。手の内を見せずに「ほら、抜くぞ」とポーズで相手を脅す。その昔、北朝鮮はこんな危なっかしい男に例えられた▲今はどうだろう。核・ミサイル開発を進める「北」は、懐に飛び道具あり、抜く用意もあり-と物騒な物言いを繰り返す。あんなのポーズさ、どうせ抜けやしない、と言ってはいられなくなった▲ならば、こちら側は最大限の圧力をかける。その点でトランプ米大統と「完全に一致した」と言い切った安倍晋三首相にとって、日米首脳会談は「一枚岩」の見せ場だったに違いない▲かたやトランプ氏は、北朝鮮による拉致の被害者家族と会い「母国に帰れるよう尽くしたい」と意気込んだ。これを一筋の光と見る向きもある。軍事行動に慎重派も多い米国世論に「北」の非道ぶりを印象づけるため、と見る向きもある▲「核」への圧力といい、「拉致」解決への意欲といい、飛び道具の男に向こうを張った形だが、男に動じる気配はない。大統領の意気込みを信じたくても、その本気度は測りがたい▲拉致が疑われる人は本県出身者にもいる。核問題は言うに及ばず、この局面に鈍感ではいられない本県で目を凝らす。(徹)

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