在カナダ脱北者の間で広がる「国外追放」への懸念

脱北して一度は韓国に入国したものの、その後カナダに向かい難民申請を行った脱北者は300人から500人ほどいると言われているが、締め付けの強化で国外追放される懸念が高まっていると、米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)が報じた。

カナダは、2007年から2015年までの間に465人の脱北者を難民として認定。単年では2012年に218人とピークに達したが、2013年から激減し、昨年にはついに0になってしまった。

これは、カナダ政府が2012年12月、安全が保障された国からの難民申請を受け付けない方針を定め、2013年5月末から韓国がその対象となったためだ。つまり、韓国に一度入国した人からの難民申請を認めないということだ。

政策が変更されて以降、難民認定を待つ脱北者への締め付けが強化されている。2012年にカナダにやって来た脱北者のAさんは最近、移民局から次のような手紙を受け取った。

「まだ難民認定審査を受ける意向があるならば、韓国に行けない理由、それも今までの理由とは別の話があれば1ページ程度の文書にまとめて難民審査10日前に提出せよ」

移民局はAさんの難民申請を1度却下しているが、本人の意思を尊重するためにこのような手紙を送ったものと思われる。もし「意向がない」と答えれば、書類が国境管理局に送られ、追放の手続きが取られるおそれがある。

2012年9月に難民の地位を認められ、永住権を申請している脱北者Bさんは「韓国政府は、自発的に第3国の国籍を取得しない限り、北朝鮮生まれの人をすべて韓国国民と見なす、そのため、あなたの永住権申請は拒否される可能性がある」という手紙を受け取った。

Bさんは、脱北後の2008年に韓国入りし、3年間暮らしたが、息子が脱北者であることを理由に差別され、学校でいじめにあったことをきっかけにカナダへの難民申請を決意した。カナダに来てから6年、息子2人はカナダの生活に馴染んでおり、家族の生活基盤もカナダにある。今さら韓国に行ってもやっていけないのだ。

ハンギョレ新聞と国家人権委員会、仁荷大学の調査によると、脱北者の45.4%が北朝鮮出身という理由で差別を受けたことがあると答えるなど、韓国社会で脱北者の置かれた環境は悪い。そのため、韓国社会に失望し、第3国に向かう人が少なからず存在する。

しかし、米トランプ政権は難民の受け入れに後ろ向きで、英国も同様の状況になっている。シリア難民の積極的な受け入れで評価されているカナダのトルドー首相だが、脱北者に関しては非常に冷たいと批判されている。ちなみにカナダ政府の難民枠での永住者受け入れ目標は、2016年の5万5800人から今年は4万人まで減少している。

カナダの脱北者団体、カナダ脱北人総連合会のキム・ロクポン会長は、同様の事例はかねてからあったが、最近は少なくとも30家族が上記のような内容の手紙を受け取るなど、事例が急増していると明らかにした。

また、トロント難民弁護士事務所のキム・ジュウン弁護士は、移民局が審査を簡略化するために、書類を一度に処理しているため、同じような事例が急増していると指摘し、人道主義移民を勧めていると説明した。

過去3年間で10家族が人道主義移民の資格を得たが、20種類以上の書類が必要で費用もかかるため、非常に負担が大きい。

カナダ上院の人権委員会は昨年7月、韓国経由でやってくる脱北者に対して難民資格を与えることを含む勧告を政府に行ったが、政府は受け入れを拒否した。

カナダのフセン移民局長は今年4月、カナダのNGOハンボイスからの質問に、韓国を経由せず、脱北ルートとなっているタイからの受け入れについては前向きな姿勢を示している。

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