文化財でコーヒーどうぞ 小田原の旧内野醤油店がカフェオープン

 この秋に国登録有形文化財になった旧内野醤油(しょうゆ)店(小田原市板橋)の一角に10月、カフェがオープンした。同店をはじめ古い街並みの板橋地区を訪れた観光客らの要望を受け、当主らが登録前に店内の一部を改装した。不定期の営業だが、店長の橋本えり子さん(52)は「観光客だけでなく、地域住民の憩いの場になれば」と話している。

 先月22日に開店したカフェは、旧住居1階にある8畳の茶室を利用。趣ある店内の雰囲気を崩さず、改装は台所の一部にとどめた。

 座布団に座る客席は10〜12席。抹茶や足柄茶、コーヒー、地元で販売されている和菓子も楽しめる。店名は同店で販売していた「武功醤油」にちなみ、「武功庵」と名付けた。

 オープンの経緯について、同店4代目当主の内野洋一郎さん(59)は「かねてから『気軽に休憩できる場所が欲しい』と観光客や地元住民から声が寄せられていた」と話す。

 同店は1903年に開業。長年、地元の大豆を使ったしょうゆを販売していたが、大手企業に客を取られ売り上げが落ち込んだ。追い打ちをかけたのが80年の伊豆半島東方沖地震。しょうゆの麹(こうじ)菌をつくる保温室の一部が倒壊したことから同年に廃業した。

 11年春に3代目当主が亡くなったが、歴史的建造物の保全活動に取り組む市民団体からの訴えを踏まえ、洋一郎さんが存続を決意。「残すならば、多くの人に楽しんでもらえるように」と、地域活性化を目指す地元の団体と協力して、これまで見学会を開いたり、写真展の会場として提供したりもしていた。

 こうした取り組みを続ける中で、観光客らの声にも応じたという。内野さんは「地域の人々にも観光客にも楽しんでもらえたら」と期待、橋本さんは「地域を元気にしたい」と意気込んでいる。しょうゆ味のまんじゅうの開発も考案中で夢は膨らんでいる。

 同店は毎月第2、第4の土、日曜に一般公開されており、カフェはそれに合わせて営業している。時間は午前10時〜午後4時。年内は今月19日と、12月10日に営業する予定。

 問い合わせは、橋本さんodawara.bukouan@gmail.com◆内野醤油店 今年7月に国の文化審議会が文科相に登録有形文化財にするよう答申した建造物244件のうちの一つ。旧東海道に面し、明治から大正時代に造られた店舗兼主屋、文庫蔵、表塀など8件が選ばれた。土蔵造りの店舗部の外壁上方にはなまこ壁が使われ、店舗入り口はアーチ型となっている。内部も上質な座敷がある

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