聞きますよ幾度も話す母のぐち抱えた荷物軽くなるなら 短歌で介護の泣き笑い

「聞きますよ 幾度も話す 母のぐち 抱えた荷物 軽くなるなら」−。相模原市南区下溝の特別養護老人ホーム「相陽台ホーム」で、利用者や職員らが創作した短歌や川柳が壁一面に飾られている。その数123点。日常の交流の中で生じた思いや感情を表現した。職員間や利用者との間で心を通わせる道具の一つとなっている。

 展示されているのは、いわゆる「介護短歌」で、同ホームの一部利用者のほか、ケアワーカー、看護師、運転士、身の回りの清掃をするスタッフなど、職員のものばかり。ホーム内で書道を教える中村光久さん(70)が今月3日に開催された施設の文化祭展示用に清書した。すべて習字用紙に筆書きした結果、多くの人の目に触れることが可能になった。

 運転士は「背を丸め 草刈る姿 首に手拭い 蝉(せみ)の声」(鈴木幸さん)と読み、ケアワーカーは「入浴日 入る入らぬ攻防戦 お湯の中では ニッコリ笑顔」(長岡友美さん)とよくある日常の一こまを表現した。

 口にすると時にはとげがあるような思いも、短歌に託すことで、気持ちがすんなり伝わり、思わずうなずいてしまう。

 ケアワーカーのユニットリーダーによる「帰りたい 帰宅願望 傾聴す 対応職員 家に帰れず」(村田芳久さん)という一首は、そんな作品の一例だ。そして、お年寄りとの交流で伝わってきた戦争も。「空襲の思い出語る 利用者の 目から涙で 恐ろしさ知る」(千坂貴志さん) 施設長の常盤拓司さんは「厳しい環境の介護業界だが、職員間で褒め合い、モチベーションが上がる。笑顔になれる」と思わぬ効果を説明する。

 同ホーム生活支援課の坂康子さんによると、96歳の利用者が長年、NHK番組「介護百人一首」に投稿してきた縁で、施設全体で挑戦することになったという。「介護職員の知られざる才能を再発見し、こんなリズムの良い短歌を作るとは、と驚くことも。今後は冊子にまとめたい」と声を弾ませている。

 見学は可能で、事前連絡が必要。相陽台ホーム電話042(777)3501。

© 株式会社神奈川新聞社