金属行人(11月13日付)

 「私、失敗しないので」は人気ドラマの女医の決め台詞である。しかし人間は失敗から学ぶことも多い。問題なのは、社会人ともなると失敗が許される時期はあまり長くないことである▼先月刊行された「巨大倒産―『絶対に潰れない会社』を潰した社長たち」(有森隆著)では、今と昔の一流企業が倒れていく経営者の失敗をたどっている。直近の例はタカタだ。著者はリーダーの要件を「危機の予知能力と修羅場に強いこと、そして組織に自分の言葉で意思を伝えること」とし、経営破綻時に言い訳ばかりだった高田重久社長はこれを「備えていなかった」と断じる▼また「経営者とビジネスパートナーが似た者同士では相乗効果は生まれない」とし、性格が正反対の側近を失ったミサワホームの三沢千代治社長が「糸の切れた凧」になっていく有様を追っている。昔の事例では安宅産業や佐世保重工業で当時の新日本製鉄が経営再建にどう関わったか、歴史を振り返る上でも面白い▼失敗すれば命が失われ、社員が路頭に迷う医師や経営者にとり大切なのは、リカバリーできる若いうちに失敗を経験し学ぶことではないか。失敗しない件の女医も、過去には海外で苦労し腕を磨いている。若い時の苦労は買ってでも、である。

© 株式会社鉄鋼新聞社