ユニークな古書店など117店の魅力を紹介した『すごい古書店 変な図書館』がおもしろい

117の古書店、専門図書館の魅力が詰まっています

 深まる秋の〝読書アドバイザー〟に、今秋発売された『すごい古書店 変な図書館』(井上理津子著、祥伝社)はいかがでしょうか。

 幅広い時代とジャンルの古書が一見雑然と並ぶ古書店は、ワンダーランドのよう。新刊本が並ぶ書店とはまた違うおもしろさがあります。

 本書には、著者の井上理津子さんが、一軒一軒訪れた85の古書店と32の専門資料館・図書館が掲載されています。

 一軒として同じような店がない古書店で、「ひとたび棚に導かれると、思いがけない本、想定していた以上の本に出合える・・」とその魅力を語り、「パソコンの検索システムなどないのに、本のおおよその輪郭を伝えれば、山と積まれた本の中から『これのことですね』とさっと1冊をとりだしてくれたり・・」と店主のプロフェッショナル度に驚いています。

 国内外のファション雑誌のバックナンバーがそろっている“magnify”(千代田区神田神保町)では、1970年代の雑誌を10代、20代の若い子達が「かっこいい」と買いに来るとのこと。井上さんの学生時代にブームとなったアイビーファッション誌『mcSister』を見つけ、胸キュンとなったり、60~70年代の男子学生のあこがれだった『MEN’S CLUB』、『VAN』、『石津謙介』などの書籍が並んでいる様子が書かれています。

 「日本の豆本の技術はすごい」と実感したという日本随一の豆本専門店“呂古書房”(千代田区神田神保町)は、多種多様な豆本がずらり。4ミリ四方、5ミリ四方の豆本もあり、そのあまりの小ささと精密さに井上さんも感嘆しています。

 記者が実際に訪れてみると、なるほどすごい。著書にも載っている、2ミリ四方のドイツのグーテンベルク博物館が出した豆本や日本各地のご当地豆本、対象から昭和にかけて活躍した童画家、武井武雄の芸術作品ともいうべき〝刊本〟が所狭しと並べられています。

あまりの小ささに文字が読めないほどの豆本(日刊現代提供) 
洋酒に関連したエッセイが書かれた豆本。これは読める大きさです(日刊現代提供)  

 店主の西尾浩子さんは、90年代に神保町で初めて女性として独立開業。「装丁が美しくて、印刷技術がすばらしい豆本は、自分の知らない世界だったので魅せられました。店舗の開業はあと先考えすぎるとできないので、清水の舞台から飛び降りるつもりで始めました」。豆本以外にも、多くの版画家によるエクスリブリス(本の表紙の裏に貼り、持ち主を示す書票)が多数あり、その美しさに時間が経つのも忘れて見とれてしまいます。購入して小さな額に飾っても素敵です。

エクスリブリスにはさまざまなデザインの版画があります。見ていて飽きません

 近年は、カフェを併設した書店も増えていますが、『すごい古書店 変な図書館』の中に登場する、東京大学近くにある古書店“弥生坂 緑の本棚”(文京区弥生)もその一つ。ちょっと違うのは、植物も売っているということ。店先に小さな鉢植えの多肉植物が並び、店内にはドライフラワーが飾られています。植物に関する書籍が目に付きますが、その他古地図や文芸、社会科学などの本もあります。

植物と本のある店内は、とてもくつろぐ雰囲気(日刊現代提供)  

 店奥のカフェでは、なんとグラパラリーフという多肉植物を使ったカレーやヨーグルトなどが楽しめます。さくっとした食感で、ジューシー、味は甘みの少ないリンゴのよう。購入した本を読みながら、この店ならではの多肉植物メニューを試してみてはいかがでしょう。

グラパラリーフを使ったチキンカレー。上にトッピングしてあるのがグラパラリーフです
皿に載っているのが、グラパラリーフ(奥)。そのまま食べるとジューシーでリンゴに似た味。メイプルシロップを付けて食べてもおいしい。手前はヨーグルトとケーキの盛り合わせにグラパラリーフがトッピングされたもの

 もともと、花屋に勤めていたという店主の綱島側光さんは、「先日は50年前の植物図鑑と現代の植物図鑑を比べるワークショップを開催しました。今後も、植物と本をつなぐイベントを開催していきたい」と話してくれました。

 井上さんは「古書店は、何となく、気むずかしい親父が店奥に座っているようなイメージがあり、入ったことがないとハードルが高く感じるかもしれません。でも、そんなことはありません。店主の方にこちらからいろいろと話しかければいいのです。意外とハードルは低いですよ」と話してくれました。

 『すごい古書店 変な図書館』を片手に、懐かしい本や初めての本、他ではお目にかかれない本との出合いに出かけてみませんか。

すごい古書店 変な図書館

著者:井上理津子

発行:祥伝社

価格:本体800円

井上理津子:奈良県出身。大阪を拠点に人物ルポやインタビューを中心に執筆していたが、2010年より東京在住。主な著書に『さいごの色街 飛田』『葬送の仕事師たち』などがある

呂古書房 

所在地:千代田区神田神保町1-1

営業時間 午前10時30分~午後6時30分、日祝日休み

弥生坂 緑の本棚

所在地:文京区弥生2-17-12

営業時間:午後1時~9時(日曜は午後6時まで)月曜休み、木曜不定休

次回ワークショップ 『官能植物』(木谷美咲著 NHK出版)の著者自ら参加の読書会

開催日時:2018年1月20日(土)夕刻~、食事・懇親会付き

詳細は12月上旬に告知予定  https://midorinohondana.com

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