流行語の陰に

 分かるようで、今でもよく分からない。今年の「新語・流行語大賞」の候補に挙がった「忖度(そんたく)」は、首相官邸の意向を役人がおもんぱかったとされる森友、加計問題のキーワード▲下の立場の者が上の胸中を察し、ご下命の形を取らずに意に沿う方へと持って行く。気の利いた、先回りの振る舞いをそう呼ぶようになったが▲今夏、本紙の「声」欄にそれを嘆く投書が載った。もっぱら「上司におもねる」の意に使われるが、本来は「人の心中を推し量ること」。日本人の文化に根差していて、称賛する場合に用いられるはずなのに、と▲なるほど、まるで悪弊扱いの「忖度」の文字が気の毒になり、同時に政治の言葉のはやり廃りも思わずにいられない。前議員の「ちーがーうーだーろー!」は「政治の言葉」とは違うだろうが▲例えば、これも流行語の候補になった「働き方改革」「人生100年時代」。最近だと「人づくり革命」という新語もある。しばし耳目を集めたとして、これら看板政策の行く先は、さて▲「地方創生」も「1億総活躍社会」も成果の有無が分からないまま、新しい看板の陰にある。「政治の言葉」はその場限り、1度の選挙に限り、その年限りでよいはずがないのに、むしろそれが首相の狙いのような-と言えば忖度、いや、邪推が過ぎようか。(徹)

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