経済制裁下の北朝鮮に吹く「有料化の嵐」…庶民から「小銭」を吸い上げ

北朝鮮当局は最近、古くなった電気メーターを新しいものに交換する事業を急ピッチで進めている。それも、交換を怠れば居住者に多額の罰金を科すほどの力の入れようだ。その理由を、平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が探った。

北朝鮮当局が定めた料金体系によると、月々の一般的な電気料金は33北朝鮮ウォン。日本円で1円にもならない激安料金だ。計画経済が曲がりなりにも機能していた時代に、公共料金がタダ同然の料金に抑えられていたことの名残だ。

無料の道路に「料金所」出現

ところが、メーターは自費での設置が求められる。それも24万北朝鮮ウォン(約3120円)、なんと606年分の電気料金に相当する。当局が法外な請求をしているのではなく、電気料金が非現実的に安いために起こる現象だが、それでも24万北朝鮮ウォンは40キロ近いコメが買える額だ。

農村などの立ち遅れた地域では当局から要求されてもメーター代を払えず、設置しないまま電気を使う人がいる。そこで、所有する家電製品の数に応じて料金を決めるという制度が取られてきた。

ところが当局は、突然平壌市内のすべての家庭に対して電気メーターの交換、または新規設置を要求し始めた。応じなければ、電気料金の10倍の罰金を科すと脅している。

市民の間からは「どうせまた、庶民から小銭を巻き上げようという魂胆だろう」との声が噴出している。電気料金をきちんと請求するのは当たり前のことだが、何だかんだと口実をつけてカネ集めをしなければならないほどの、当局の困窮ぶりが庶民に見透かされてしまったということだ。

しかも、当局は料金をしっかり徴収しようとする一方で、電気はまともに供給できないため、市民はソーラーパネルを買って電気を自給自足している。

その一方で、電気事業を管轄する地方政府の送配電部の職員は、トンジュ(金主、新興富裕層)からワイロを受け取り、工場向けの電気を横流しして小銭を儲けている。庶民から不満の声が上がるのは当然のことだろう。

当局の苦しい台所事情をうかがえるエピソードは他にもある。

別の情報筋によると、平壌と地方を結ぶ高速道路に関所のようなものを設置する工事が急ピッチで進められている。関所とはもちろん料金所のことだ。今まで北朝鮮の高速道路には検問所はあったものの、無料で利用できるため料金所はなかったのだが、有料化に踏み切ることにしたもようだ。

また、平壌市内のレストランなどに車を停めると、レストランから1時間1000北朝鮮ウォン(約13円)の駐車料を要求されていたが、徴収を行う主体が人民委員会(市役所)に変わった。駅前や住宅の前に車を停めていても、係官がやって来て料金を取られるという。

似たような事例は、ほかにもある。

各市の人民委員会の商業部は、個人経営の食堂、雑貨屋、美容室を登録させ、商業管理所所属という看板を掲げさせる。一見すると国営だが、実体は個人経営という一種の名義貸しを行い、利益の1割を税金として納めさせる。

税金を払おうとしない商店主に対しては、営業をやめさせ、設備を没収するなどの強硬手段を取るという。

北朝鮮は世界で唯一の「税金制度のない国」を標榜し、国民から「税金」の徴収は行っていない。

しかし、実際には市場を利用する人から市場管理費、駐輪代などの名目でカネを徴収したり、政治的行事や建設工事を行なうたびに「忠誠の資金」と称してカネを巻き上げたりしている。つまり、「税金」という名称を使っていないだけで、必要なだけ国民から吸い上げているということだ。

極めて非現実的な「税金制度のない国」政策だが、1974年に金日成主席が提案したものだけあって、廃止や改正を唱えることは難しい。最高指導者の命令や指示を不変のものとする遺訓統治が国是であるため、いくら時代遅れで間違った政策であっても、異を唱えれば政治犯にされかねないからだ。

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