うつ病、PTSD…「不眠」を引き起こす怖い病気

精神的な病気の初期症状として不眠が現われたり、逆に、長期間にわたり不眠が続くと精神に障害を起こすことがあります。

慢性的な不眠症に悩む方の約3分の1から半数は、何らかの精神医学的な障害を抱えているといわれています。ここでは心の問題の中でも、特に多くみられる3つの病気に焦点を当てて、それぞれの症状や対処法を詳しく解説します。

睡眠時間に対する強いこだわりがあります⇒「精神生理性不眠症」

不眠症を起こす病気の中で最もよくみられるものは、「精神生理性不眠症」です。これは、神経質な部分があり、完全主義傾向が強い人に多くみられます。

精神的なストレスが高まると一時的な不眠になることは、多くの人が経験することです。普通は不眠の原因がなくなると不眠は解消されますが、睡眠に対するこだわりが必要以上に強い人は、不眠そのものを強く意識して悩み続けます。

そして、眠れないことに対する不安や恐怖が芽生え、ベッドに入ると「眠らなければいけない!」と精神的に緊張します。この「不眠恐怖」が新しいストレスとなって、不眠を慢性化してしまうのです。また、睡眠障害に詳しくない医師に相談しても、「気にしすぎ」などと軽くあしらわれて、さらに悪化していることも。

「精神生理性不眠症」は睡眠薬による治療が効果的ですが、その前に自分でできる対処法があります。それは、次に挙げる正しい睡眠習慣や睡眠環境について十分理解し、これまでの睡眠習慣・環境の良くないところを改善することです。

・ ベッドに入る時刻や、睡眠時間の長さにこだわリ過ぎない

・ 起きる時間を一定にする

・ 朝の光を十分に浴びる

・ 午後から夕方にかけて、適度に運動する

・ 寝室の環境を整える

・ ベッドは、睡眠と性生活以外に使わない

・ カフェインやアルコール、ニコチンを減らす

・ 眠る前に、リラックスする時間をとる

それでもまだ不眠が続くときには、「睡眠制限療法」を試してみましょう。

睡眠制限療法

精神生理性不眠症の方は、睡眠時間が足らないと思い込んでいるため、少しでも長く眠ろうとして、ダラダラとベッドの中で過ごしがちです。しかしこれでは、浅い眠りの時間が増えるばかりで熟睡感を得られず、途中で目が覚めてしまう原因にもなります。

睡眠制限療法は、ベッドの中で過ごす時間 = 床上時間を制限して、床上時間と本当に必要な睡眠時間のギャップを少なくすることが目的です。また、浅い眠りの時間をなくすことで、逆に眠りを深くする効果もあります。

実際の睡眠制限療法は、次のような流れで行われます。

1.2週間の睡眠時間を記録する

2.実際の睡眠時間の平均に15分を加えた時間を、床上時間と決める

3.床上時間が5時間以下の場合には、5時間に設定する

4.起床時刻は一定とする

5.起床時刻から逆算した時刻に、ベッドに入る

6.日中には昼寝をせず、ベッドも使わない

7.起床時に、何時間眠れたかを記録する

8.5日間にわたって、床上時間の90%以上眠れたら、床上時間を15分増やす

参考:「睡眠障害の対応と治療のガイドライン」

自分1人で睡眠制限療法を行うことが難しければ、睡眠治療の専門家から指導やカウンセリングを受けながら、実行してみてください。

何だかヤル気が起きません⇒「うつ病」

うつ病ではほとんどの場合に不眠がみられ、うつ病の重症度と不眠の重症度は相関しています。

そのため、不眠を訴えていた人が実はうつ病の初期だった、ということがよくあります。また逆に、不眠が続いている人の多くが、うつ病を引き起こしやすいことも分かっています。うつ病による不眠の特徴は、朝早くに目が覚めてしまって、再び眠ることができなくなることです。また、寝つきが悪かったり、夜中に目が覚めてしまったりということもよくあります。

これは、睡眠を誘発する物質を蓄えるメカニズムに異常があって、睡眠物質がなかなか溜まらないため、寝つくのに時間がかかり、眠りの維持もできないのだと考えられています。さらに不眠の多くは、数週~数カ月間にわたって毎晩続きます。夜だけでなく昼間に眠ることもできず、「全く眠れない」というのが、うつ病のもう1つの特徴です。

不眠に加えて、意欲の低下や食欲の不振、起床時の気分の落ち込み、イライラする感じがあるときには、うつ病が疑われます。心配な方は、早めに心の病の専門医に相談すると良いでしょう。

うつ病を治して、不眠も解消

不眠だからといって安易に睡眠薬を使用していては、効果がないばかりでなく、逆に有害な場合もあります。うつ病に伴う不眠は、うつ病の治療を優先して行います。具体的には、抗うつ薬や抗不安薬(精神安定薬)が用いられ、精神療法も同時に行われます。

最近では抗うつ薬の中でも、選択性セロトニン再取り込み阻害薬 (SSRI) や選択性セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)が、よく使われます。これらの薬は、日中の眠気などの副作用が少ないことが、利点です。さらにSSRIは、睡眠ホルモンであるメラトニンの夜間の分泌を高めるというデータがあり、不眠の治療効果も期待されています。

薬による治療と同じくらい、精神療法も大事です。認知療法や行動療法などの精神療法では、専門医や専門のカウンセラーが患者さんの話をよく聞いたうえで、心の動きについての専門的な知識を伝え、うつ病や不眠を改善・解消するための指示を与えます。

精神療法は効果が表われるまでには少し時間がかかりますが、専門家の指導の下に行えば、薬を使わずに自分の力でうつ病や不眠を克服することも可能です。

あのことを思い出してしまいます⇒「心的外傷後ストレス障害 PTSD」

災害や大きな事故、性的犯罪が心の傷となって、思い出したくないのに思い出してしまうことがあります。

このようなことが長期間にわたって何回も、とても強い不安感や恐怖感を伴って起こり、日常の生活や活動に支障をきたす精神の障害を「心的外傷後ストレス障害 PTSD」といいます。突然イヤな出来事を思い出して、心臓がドキドキしたり息がしにくくなるのが「パニック発作」ですが、これは昼間よりも夜中に多く起こります。

原因となった出来事が夢体験として現れやすく、悪夢にうなされて目覚めたら汗びっしょりだった、ということもあります。そして、眠るとまた怖い夢を見るのではないかと不安になって、次第にグッスリ眠れなくなっていきます。

心的外傷後ストレス障害の患者さんに睡眠時ポリグラフ検査を行うと、寝ついてから深い睡眠のノンレム睡眠に入ったあと、健康な人よりも短い時間でレム睡眠に入ってしまいます。そのため途中でよく目を覚まし、寝返りを打つなどして盛んに体を動かします。また、ノンレム睡眠の中でも、深い眠りに入るときにパニック発作が起きやすいので、熟眠感がなかなか得られません。

心的外傷後ストレス障害PTSDよ、さようなら

この病気の治療には、うつ病と同様に、薬による治療と精神療法が行われます。

薬としては、主に抗うつ薬、特に選択性セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や、選択性セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)がよく使われます。

強い不安や恐怖は、脳の中にあるセロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質の異常によって引き起こされるので、それらをコントロールする薬が効果的だからです。また、上記でご紹介しましたが、SSRIには睡眠中の血中メラトニン濃度を上げる作用もあるので、不眠の改善にも効果が期待できます。

抗うつ薬の他に、症状に合わせて睡眠薬を使うこともあります。不安が強くて寝つきが悪い場合や熟睡感が得られないときには、アモバンやマイスリーなど効果の持続が比較的短時間で、深いノンレム睡眠を増やしやすい薬が選ばれます。夜中に目が覚めてそのあと眠れないタイプの不眠には、作用時間が少し長めの睡眠薬が合っています。

当てはまる症状があるようでしたら、早めに専門医やカウンセラーにご相談することをおススメします。病気でなければ安心できますし、もし病気が見つかれば、早く治療を始めたほうが早く治りやすいですよ。

(文:坪田 聡)

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