【新日鉄住金・事業部長インタビュー】〈厚板事業部・飯島敦常務〉「マージン改善が最大の課題」 高機能材、早期に商品化

――厚板の需給環境からお聞きしたい。

 「その前に、大分製鉄所厚板工場の火災事故について関係者の方々にご迷惑をお掛けしたことを深くお詫びしたい。8月に再稼働して現在はフル生産に戻っている。安定生産を継続して需要に応え、信頼回復に努めたい」

 「需給環境については9月下旬ごろから需要が強くなってきたと感じている。年度初めには、今年度の国内造船向け需要は320万トン程度に落ちることも覚悟していたが、350万トン以上になりそうだ。2020年の環境規制強化を前に新造船の動きが加速している。韓国など海外の造船需要も回復の動きが出てきた。また鉄骨需要も年間530万トン強の見込みで、当該分野向けの厚板需要も120万トンを超えるとみている。建産機向けも堅調で、ここにきて急速に需給がタイト化してきた」

新日鉄住金厚板事業部・飯島常務

 「エネルギー分野だけは低迷が続いている。海洋構造物向けや高ニッケル鋼は激減したままで、ラックアンドコード用などはほぼゼロに落ち込んでいる。この分野は中長期にわたり、足下の底ばい状態が続く前提で考えている」

――厚板ミルの稼働状況は。

 「全社で4ミルあるが大分は再稼働後はフル稼働で対応している。シフトダウンをしている君津・鹿島・名古屋の3ミルも現在の生産能力下で上方弾力を活用している。8月までの需給環境からすると様変わりとなっている」

――厚板事業の短期課題は。

 「事業部損益は経営に全く貢献できていない状態が続いている。安定生産を継続するためにも値上げによるマージン改善が最大の課題だ。トン5千円のマージン改善のうち9月末までに代表分野である造船向けを含めてヒモ付きで半分ぐらいを認めて頂いた。残り分につき下期の中で丁寧に会話をして理解を得ていきたい。店売り分野ではトン3千円程度が浸透してきているが、需給タイト感も出てきており、早期に5千円に到達できるようにしていく必要がある。それによって経営に貢献できる事業への立て直しを進めなければと考えている」

――中長期の課題認識や取り組みについて。

 「造船業界など需要家業界を支え、日本のモノづくりを将来にわたって成り立たせるような役割と機能を果たしたい。お客様がつくる最終製品の機能や価値を高めるような商品開発や提案営業をしていく」

――具体的には?

 「たとえば造船向けの衝突安全性に優れたNSafe―Hull、高耐食鋼板NSGP、高アレスト鋼などは、船の安全性を高めて最終製品の価値を高めるための厚板だ。NSafe―Hullを標準装備とした安全性の高い船舶の普及、一定の港には当該安定性を備えた船しか入れないといった標準規格化・ルール化も視野に入れて活動に取り組んでいく」

――その他分野では。

 「建機・産機や橋梁などでも、ソリューション提案型の営業を強化する方針だ。シャーリング企業やファブリケーターと連携しながら、維持・メンテナンス含めたライフサイクルの視点もあわせ塗装周期延長鋼のCORSPACEやSBHS等の拡大を進めたい。従来からシャー業界とファブリケーター各社とは、歩留まり、ネスティング、材料請求、工期短縮、端材管理などにともに取り組んで来ている。この協業が日本の建築のモノづくりを支えていると自負している。これは開発・設計・建設現場工期等々の計画精度にも左右される。そういった観点から全国厚板シヤリング工業組合が取り組む取引適正化などの商慣行改善も後押ししていく」

――今後の重点戦略商品について。

 「エネルギー分野の中の海洋構造物向けなどは先ほど申し上げたように当面回復しないとみている。それに代わる超高級鋼、高機能材の分野を育てる必要がある。前述の商品群に加えて耐摩耗鋼板のABREXなどに期待している。ABREXは建機やダンプ向けだけでなく、鉱山機械および加工機器類向けなどにも適用範囲が広がっている。それらを含め高機能材を早期に商品化していきたい」

――国内事業会社の現況は。

 「昨年度までに出資拡大を含めて基盤強化を図り、今は全社黒字となっている。ただ中長期的に内需が頭打ちになることを想定すると、さらなる基盤強化は課題と言える。造船、建機、建材といった専門分野だけでなく総合的に加工を手掛ける形に持っていく必要があるだろう。地域ごとに最適な形を考えていきたい」(一柳 朋紀)

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