【愛知製鋼・磁石事業の展望】〈御手洗浩成参与に聞く〉自動車のEV化など環境対策で需要増続く 大型モーター向け開発強化

 自動車のEV化や軽量化、省エネ家電の進展など地球環境に貢献するものづくりの技術がクローズアップされている。その核心技術の一つが「磁石」。鉄をベースにした世界最高性能の永久磁石である「ネオジム・鉄・ボロン(Nd―Fe―B)磁石」。愛知製鋼ではその磁粉から製品までを一貫して自社生産。Dy(ジスプロシウム)フリーなどでレアアース問題にも挑み、車載用モータや電動工具向けに数多い採用実績がある。自動車の動力構造をはじめとする時代の変化に応じて、同社は磁石事業の今後をどう捉え、進めていこうとしているのか。今年から事業推進力強化を狙いに新たにスタートしたスマートカンパニーで磁石事業を担当する御手洗浩成参与(工学博士)に現状と展望を聞いた。(片岡 徹)

――自動車のEV化が今後急速に進む可能性が高いが。

 「世界の人口は2050年には95億人に達する(総務省調べ)と予想され、それに伴ってグローバルでの自動車需要は今後も伸長するだろう。一方、地球環境への貢献意識も高まり、EV化も急速に進みそうだ。そうなると、現在年間12万~13万トンとされる磁石需要も飛躍的に増える。軽量化・コンパクト化を実現できるネオジム系磁石への期待はさらに高まる」

――愛知製鋼の磁石事業の歴史は。

愛知製鋼・御手洗参与

 「1987年に開発設備を導入して商品企画を開始した。当初から自動車用の機能材料として開発をメーンに進めてきた。徐々に耐熱性の高い磁石へのニーズが高まり、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)センサーの開発が進んだ92年から、ネオジム系磁石の生産を開始。その後、自動車軽量化の流れを受けて機能部品としての磁石の存在感が高まり、05年に自動車用シートモーターへの採用を契機に、地歩を確立した」

――拠点展開は。

 「関(岐阜)に磁粉の生産工場、東浦(愛知)に磁石生産工場がある。海外は中国(浙江省)、チェコ(リブレッツ市)に製造拠点も持ち、地産地消のモノづくりを展開し、現地での需要拡大に対応している。磁石事業全体での人員は約120人で、スマートカンパニー全体の3割程度が磁石事業に携わっている」

――貴社の磁石開発・生産の特徴は。

 「まず、磁粉から一貫生産している点。また、地政学リスクの高いレアアースの安定供給をめぐる資源問題にもいち早く取り組み、Dyを使用せずに磁石の保磁力を高めた製品『マグファイン』なども開発した。お客様と綿密に打ち合わせをしてニーズに合った開発を進めるのが当社のビジネススタイル。我々の製品がお客様の生産工程の中でどのように貢献できるか、それぞれのお客様の工程や性能に合った設計提案を実施している」

――ボンド磁石の生産を行っているが。

 「磁粉と樹脂を混ぜるボンド磁石は、磁力特性の点では焼結磁石に及ばないが、一体射出成形技術(磁粉と樹脂を混ぜて加熱し金型に充填して成形する技術)を確立し、大きな優位性がある。具体的には、部品形成プロセスの中で最適な磁石形状を実現することで、お客様段階の工程省略に貢献できる。また、当社のボンド磁石は電気抵抗が高く、モータの高速回転にも耐えられる高い性能を持っていることに加え、リサイクルも可能であり、環境にも優しい製品である」

――一体射出成形技術では電動工具などで採用実績がある。

 「マキタ(本社・愛知県安城市)さんの充電式草刈機用モータ、充電式チェーンソー用モータに相次いで採用頂いた。一体射出成形技術により、磁力を最大限に生かす最適な磁石断面形状の設計が可能となり、モータ組立時の接着工程省略を実現した。また、高さの異なる磁石を成形することが容易になり、モータ出力に応じた磁石アッセンブリーも可能になった。モータの性能向上により、騒音や振動が少なくなり、エンジン式のものと同等レベルの出力を実現するなど、お客様からも高い評価を受けている。この技術を生かし、家電、エネルギー、自動車分野などでの実績拡大を目指したい」

――今後の研究開発・商品化などの課題は。

 「一つ目として、磁粉そのものの開発。2020年までに磁粉の磁力を現在より30%アップしたい。これを実現するため、当社が培ってきた知見を生かし、グローバルでの大学との共同研究を進める。設備面では、すでに増強投資を実施しており、当面の需要増には対応できる。二つ目にプロセス開発。生産面での改善を鋭意進めていく」

 「三つ目は『どう使ったらいいか』という提案営業の推進。モータ設計(磁気回路設計)を部品全体というトータルで考えて提案していくこと。例えばEV化が進めば、現在採用頂いている家電分野のように高効率モータに対応する磁石ニーズが高まると考える。航続距離を伸ばすなどのニーズに対する磁石の役割は大きく『マグファイン』のさらなる需要拡大が期待できる。もちろんグローバルでの取り組み課題になる」

――目先での開発テーマなどは。

 「幾つかあるが、現在は電機関係を中心にお客様との共同開発に取り組んでいる。また発電用の磁石開発や、500キロワットクラスの高回転型の大型モータ向けの開発案件などもある。EV化の進展を踏まえたさらなる技術開発の推進など、社会ニーズの変化を先取りしながら、お客様の期待に即応できるビジネスを展開したい」

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