金正恩氏がトラックを運転して吠えた「これは奇跡だ!」

今年、弾道ミサイル発射など軍事部門の視察が目立っていた北朝鮮の金正恩党委員長だが、最後にミサイルを発射した9月15日以降は、民生・経済部門を集中的に訪れている。11月21日には国営の朝鮮中央通信が、勝利(スンリ)自動車連合企業所を視察したと伝えている。

公道で遭遇したら危険

1950年に設立された同企業所は、その8年後に北朝鮮初のトラックを組み立てたことで知られ、故金正日総書記は9回、故金日成主席は19回も訪れている。

同通信によれば、「金正恩委員長は、自らトラックに乗って運転しながら5tトラックの性能と技術的特性を具体的に確かめた」という。実際、同通信が配信した写真の中には、金正恩氏がトラックのステアリングを握り、わずかに動かしてみたような場面のものもある。

(【画像】勝利自動車連合企業所を現地指導した金正恩氏

平壌市民の間では、金正恩氏が「深夜の走り屋」としての横顔を持っていることが知られている。

敵対勢力がわれわれの前途を阻もうとあがくほど、朝鮮労働者階級の不屈の精神力はよりいっそう強まり、世界を驚かす偉大な奇跡を生んでいるということを、新たに生産された5tトラックが実証していると力を込めて述べた。(中略) また、国の経済を発展させ、国力を強化するにはトラックを自前で生産することがとても重要であるとし、近代的なトラックを量産できるよう、連合企業所を新世紀の要求に即して改築近代化しなければならないと述べた」

一見、特別な発言ではないようにも思えるかもしれないが、北朝鮮経済の実情を踏まえると、なかなか重要なことを言っているのだ。

北朝鮮では、社会主義的な計画経済が破たんし、なし崩し的な市場経済化が進んでいる。国際社会から制裁を受けても容易に崩壊しないのは、市場でのビジネス(内需)が拡大し、経済の足腰が強くなったからだ。

市場経済が拡大すれば、ヒトや商品の移動も活発化する。しかし北朝鮮の公共交通インフラ(主として鉄道)は、電力難のためまともな運行が期待できない。現在その穴を埋めているのが、トラックやバスなどの交通手段なのだ。つまり、北朝鮮が制裁を生き延びるにはトラックの十分な供給が必要なのだ。しかも、制裁は車両の輸入も難しくしている。

つまり、金正恩氏は「クルマ好き」だからこの企業所を視察したワケではなく、そこで発した「企業所の改築近代化」の指示にも、それなりに重要な意味が込められているのである。

(参考記事:金正恩氏、新型ベンツにも「自分用トイレ」を装備か

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