フットゴルフ界には競技志向の選手達から一目置かれ、憧れの存在でもある6名の選手達がいます。「オリジナル6(シックス)」と呼ばれる彼らは、フットゴルフで初めての日本代表に選ばれた選手達です。
Golaco[ゴラッソ]では、新しい試みとして全6回、オリジナル6に該当する選手達それぞれの記事を掲載していきます。第一回目は、現在日本で唯一プロのフットゴルファーとして活動している新井晋(あらいすすむ)選手。フットゴルフ界のスターに、フットゴルフを始めた経緯や想い、そして、これからフットゴルフを始めたい方に向けてスコアを伸ばすためのテクニックに至るまでたっぷりと聞いてきました。
(写真:フットゴルフのオリジナル6 左から冨沢和末選手、鈴木秀成選手、桑田寛之選手、新井晋選手、田中雄太選手、コージャ今村選手)
そもそもフットゴルフとはどういうスポーツなのか
先にフットゴルフというスポーツについて紹介すると、ゴルフ×サッカーの融合スポーツです。日本ではプレー歴が長い選手でも3年半程で、いわゆる新興スポーツにあたります。ボールはサッカーボールを、カップは21インチ(約53cm)で、サッカーボール約2個分のものを使用。ゴルフのルールが適用されます。
選手はサッカー経験者が多いですが、ボールは蹴れば必ず前に進むので、未経験者でも始めやすいです。実際筆者もサッカー未経験かつ運動不足でありながら、以前Golacoの記事でコンペに参加してきましたが、楽しむことができました。このように、誰でも楽しめる生涯スポーツとしても注目されつつあり、フットゴルフをプレーできるゴルフ場も少しずつ増えているようです。
そんなフットゴルフを競技志向でみたときに避けて通れない選手達。それがオリジナル6です。
オリジナル6以外に、日本代表として選ばれた実績を持つ選手達も多数登場していますが、それでもやはり「初代」は強いということで、フットゴルフ界のカリスマたちを取材していきます。
連載第一回目:プロフットゴルファー新井晋選手
オリジナル6の1人、新井晋選手はアラコ選手とも呼ばれ、フットゴルフ界を牽引するトップ選手です。大会に出場するのはもちろん、フットゴルフの様々な普及活動にも取り組んでいます。
以前Golacoで取材したジャパンオープンファイナルの場で、新井選手はホールインワンを決めています。
フットゴルフは通常4人1組で回ります。ジャパンオープンの組分けは抽選ですが、今回はファイナルだったこともあり、ワールドランキング順に分けられた可能性が高いです。日本人選手の中でワールドランキング上位に付けている新井選手は最終組。こちらの組は全員がオリジナル6という顔ぶれで、日本トップクラスの実力がぶつかり合っていました。
フットゴルフは同じ組に実力のある選手達がいると、刺激や意識による効果なのか集中しやすくなる傾向があるそうです。最終組はその点、お互いに良い影響を与え合っていたのかもしれません。
ある意味気持ちの良い緊張感が漂う中で、難しい位置からのホールインワン。蹴ったタイミングでは、新井選手の周りにいた全ての人間は、ホールインワンが出るとは予想していなかったと思います。状況を見極めるセンスの良さ、運を味方に付ける力、新井選手は努力によって多くのものを獲得してきた選手といえるのではないでしょうか。
フットゴルフとの出会い
―新井選手がフットゴルフを始めたきっかけは何だったのでしょうか。
「フットゴルフ協会のメンバーが、社会人サッカーの元チームメイトで、そこから大会の話を聞いたことです。僕は元々ずっとサッカーをやっていたのですが、小学生の頃、校庭の砂場に穴を掘って校舎の裏から何回で入るかっていう遊びをやったことがあって。フットゴルフと聞いた時にその遊びを思い出して、おもしろそうって思ったのと、あと、僕はゴルフはやらないのですが、ゴルフ場は芝生で広くてきれいなところとは知っていたので、そこでサッカーボールを蹴れるっていうのは楽しそうだなって思って」
―初めて出場した大会から、どうしてフットゴルフを継続することにしたのでしょうか。
「大会に出て、2位タイという良い結果だったのです。それでもっとやってみようって思いました。その後、初めて日本代表を選ぶって話が出てきて。スポーツをやっている人にとって日本代表って憧れの肩書みたいなところがあるかと思いますが、僕はフットゴルフにのめり込んでいたし、このスポーツで日本代表になれる可能性があるなら頑張ってみようと思ったのです。そして運良くオリジナル6になることができました」
―オリジナル6が初めて出場した国際大会。初めてなので手探りだったと思いますが、新井選手はどのような感想を抱いたのでしょうか。
「カルチャーショックを受けました。オリジナル6が初めて参加した国際大会、オランダのキャピタルカップは、現在も多分ヨーロッパで一番人気が高いくらいの大会なのですが、実力がまったく通用しませんでした。そこで追いつきたいって思ったし、刺激も受けました」
―どうして通用しなかったのでしょうか。
「当時の日本は今よりフットゴルフをプレーできる環境が整っていなくて、オリジナル6のだいたいが、ほとんど練習をしていないまま国際大会にポンッと出場したのです。海外の選手にフットゴルフ歴を聞いた時、僕らとそんなに極端な差はなかったのですが、ただ、濃さが違いました。彼らは日本人選手達より練習量が多いのです。現実を知って、僕は彼らと対等に戦えるようになりたいと思いました」
―オランダの大会の次はワールドカップが開催されたそうですが、新井選手はそちらにも出場されたのですよね。
「はい。ワールドカップでも日本代表に選ばれました。先ほどのオランダの大会は誰でも出場できるオープン大会だったのですが、ワールドカップは国を代表する選手達が出るもので、成績は振るわなかった。その時に、もっとうまくなりたい。日本のフットゴルフ環境も良くしていきたいと思うようになりましたね」
会社員を辞めてフットゴルフのプロへ転向
―新井選手はフットゴルフのプロになるまで、どのような生活をしていたのですか。
「会社員でした。フットゴルフも元々は会社員をしながらやっていこうと思っていました。でも、あの頃、勤めていた会社でちょうど10年目が終わろうとしていたのですが、今後の仕事に対するモチベーションがあまり上がってこなくて。一度きりの人生だし自分の好きなことをやることにしたのです。家族の理解も得ることができ、物凄く感謝しています。2016年5月いっぱいで会社員は辞めて2016年の6月からプロとして始動しました」
―プロとしての今後の目標を教えてください。
「2つあって、1つは競技者として世界トップレベルの選手になっていきたいです。もう1つはフットゴルフを生涯スポーツとして普及させていきたい。トップ選手になるために、時には世界に出ていく必要もあるかと思います。でも、まずは日本でしっかり結果を残して、海外に遠征という形でやっていくのが現実的かなと。スポンサーさんや応援してくれる人達に、結果をみせていきたいです」
プロの視点でみるフットゴルフの戦略
ロングキックを得意とする選手はティーキックを重視。サッカーが得意な選手はアプローチショット(キック)を重視。そして、最後はパットで決めることが多いのでパットにこだわる選手もいて、傾向は選手によって実に様々となっています。新井選手はどれを得意としているのか聞いたところ、ティーキック、アプローチショット、パットというフットゴルフ三本柱の総合的な水準を高く保っているという答えが返ってきました。
そして、それ以外にマネジメント力にこだわりがあると教えてくれました。ゴルフ場には傾斜、障害物があります。サッカー経験者が多いフットゴルフ界ですが、サッカー場にはこのようなものはないため、サッカー経験者はそこに対処する練習はしてきていません。また、目標位置にボールを置くという練習も基本はしていないかと思われるので、苦戦する選手が多いようです。
ストレートに詰めていけば、いずれはカップに届くかもしれませんが、スコアを競ううえでは非効率になりやすいです。スコアを良くするためには「どこの角度から狙うか」という戦略の構築が重要になります。
「あの角度に乗せる」ために「このキック」を使う。その場では飛距離が出なくても、次の手のためにボールを乗せる位置を決める。新井選手はそこまで計算してプレーをしているとこのことです。新井選手のいうマネジメント力は、いうなれば展開のデザイン力。戦略、経験、全てが新井選手の実力の土台になっているのではないでしょうか。
新井選手のオリジナル6への想い
―新井選手にとってオリジナル6とは、どんな存在ですか。
「一番はライバル。でも、一緒に盛り上げていく仲間とも思っています。特にオリジナル6のコージャ今村選手とは一緒にトークイベントをやるなど、仲が良いです。僕は彼のことを戦友みたいな存在だと思っています。彼が僕に対しライバル心があるかはわからないですけど、僕としては常に持っていますね。もちろん他の選手にも」
―この選手には負けたくないと、特に意識してしまう選手はいますか。
「それは全てのフットゴルフ選手です。常に一番になりたいと考えているからです。ただ、その中でもオリジナル6は特に意識しています。彼らも結果を出してきているので。自分も結果を出していきたいです」
これからフットゴルフを始める人へ!新井選手のアドバイス
―筆者はサッカー未経験かつ女性で、キックしても飛距離が伸びないです。筆者含めて、飛距離に伸び悩むサッカー未経験者、初心者に、フットゴルフでスコアを伸ばすためには、何から練習したら良いかアドバイスをお願いします。
「そうですね。未経験や初心者の方がボールを遠くへ飛ばすってなると、トーキックが一番飛ぶので、トーキックを極めていくのがいいかなと思います。ボールの真ん中をきちんとつま先で蹴るとしっかりと飛んでくれます。ただ、少しでもずれてしまうとあっちにったりこっちにいったりしてしまうので、そこは練習あるのみです」
―筆者は通っていたフットサルスクールの指導方針もあり、インサイドキックを使うクセがありますが、どうしてトーキックが良いのでしょうか。
「何故、トーキックがいいのかというと、小さい振り幅でも速くて強いボールを蹴りやすいからです。サッカー未経験や初心者の方でフットゴルフが上手くなりたいなら、トーキックと、それからパットを中心に練習していくと良いと思います!」
取材後記
筆者は取材でいくつかのフットゴルフの大会に足を運び、間近でみて感じていますが、ティーキックの際の蹴り方は選手によって個性があります。インステップキックをする選手も多く、そうなると動作が派手になります。この派手さは、サッカーの試合中だと「次の手を読まれる」ことに繋がるので、そこまで頻繁に繰り出されるものではないそうなのですが、フットゴルフになると普通に登場します。
「ボールを奪われる危機」というサッカー特有のやり取りもない分、選手が自分のやりやすいように蹴るので、クセもはっきりとわかります。筆者は、これがフットゴルフを観る側のおもしろさの1つだと感じています。
ティーキックの存在感、パット時の緊張感。「動」と「静」両方の面を併せ持つのがフットゴルフの魅力です。観ている側でも充分楽しめるスポーツだと思います。ぜひ、一度生で観て欲しいです。
今回、取材に応じてくれた、日本で初めてのプロフットゴルファー新井選手。前例がないものを身一つで切り開いていく当事者であることの難しさを感じさせられました。新井選手が日本のフットゴルフ界の未来を切り開き、後に続く若い選手達に背中を見せる立場になっていくのだと思います。新井選手の今後の活躍に期待しましょう。
次回、連載第2回目は他の追随を許さないハイレベルなロングキックで存在感を放つ、オリジナル6の田中雄太選手をご紹介します。
新井選手プロフィール
1975年に東京で生まれ、横浜に移り住んだ6歳からサッカーを始める。
2014年にフットゴルフと出会い、2015年に日本代表として国際大会に出場し、海外のフットゴルフを肌で感じる。
2016年1月に開催されたワールドカップに出場し、世界との壁を痛感。
2016年6月から日本初のプロフットゴルファーとして活動中。初心者向け大会や関東フットゴルフリーグの運営などのイベント企画・運営、webサイト「フットゴルフマガジン」を開設するなどして、競技として、生涯スポーツとして普及活動や認知度向上に尽力中。
【戦績】
・ジャパンオープン
優勝(第18回)
準優勝(第2、4回)
3位(第12、14回)
・2016ワールドカップ
96位タイ(230人中)
・2016アジアカップ
9位タイ(40人中)
【2017シーズン】
・World Tour 2017
第27回ジャパンオープン:7位タイ(FIFG100)
第28回ジャパンオープン:5位タイ(FIFG100)
第29回ジャパンオープン:6位タイ(FIFG100)
第30回ジャパンオープン:4位タイ(FIFG100)
第31回ジャパンオープン:14位タイ(FIFG100)
第32回ジャパンオープン:4位タイ(FIFG100)
Acapulco Open 2017:18位タイ(FIFG1000)
U.S. Pro-Am 2017:42位タイ(FIFG1000)
第33回ジャパンオープン:8位タイ(FIFG100)
JAPAN FOOTGOLF INTERNATIONAL OPEN 2017:25位タイ(FIFG1000)
ジャパンオープンファイナル:4位タイ(World Tour 対象外)
インフォメーション
フットゴルフは初のテレビ放送が確定しています。
オリジナル6の選手達も出場しているので、フットゴルフに興味がある方は要注目です。
「FIFG WORLD TOUR JAPAN FOOTGOLF INTERNATIONAL OPEN 2017 supported by Cygames」テレビ放送予定
日テレG+
初回放送:11月25日(土)15:30~16:30
再放送:11月27日(月)18:00~19:00
(放送日程は変更になる可能性があります)
【新井選手公式スポンサー】
富士アクティビティパーク(日本初のフットゴルフ専用コース)
https://www.pica-resort.jp/campica-fuji/activitypark/
スポーツショップGALLERY・2
【サプライヤー】
CAPAZ(カパース)
【新井選手公式ブログ】
http://www.footgolfer.jp/blog/araco
【自主運営サイト】
フットゴルフマガジン