【中国鉄鋼業の過剰能力削減】予想外のスピードで進展、目標「前倒し達成」も 中国構造調整のモデル

 3億トン超の過剰能力を抱えるとされる中国鉄鋼業。第13次5カ年計画(2016~20年)で抜本的な能力削減策を打ち出し、実効性の高い対策を矢継ぎ早に実行してきた。一連の施策によって、これまでに累計1億トン弱の削減を達成、目標(1億4千万トン削減)の前倒し達成を視野に入れる。「相当な時間がかかる」とみられていた中国鉄鋼業の構造改革だが、予想外のスピードで進んでいる。

 日中経済協会、経団連、日本商工会議所の経済界合同訪中団が今週、北京市で李克強首相ら中国政府首脳と相次ぎ会談した。代表団の団長を務める宗岡正二・日中経済協会会長(新日鉄住金会長)は21日の李克強首相との会談で、中国鉄鋼業の過剰生産問題に触れ、「計画目標を達成していただいている。他の業界でも着実な諸施策の実施をお願いしたい」と述べ、鉄鋼業の能力削減が着実に進んでいることを評価した。李首相は鉄鋼業に言及しなかったものの、「サプライサイドの構造改革を実行して、市場の活力を開放し、国有企業の改革を引き続き推進していく」と語り、鉄鋼業などの構造改革の進ちょくに自信を見せた。

 宗岡会長は16年、17年の訪中で中国鉄鋼業の過剰能力に言及。中国鉄鋼業の構造調整の必要性を幾度も指摘した。中国鉄鋼業は当時、生産した鋼材を国内で吸収し切れず、輸出ドライブが鮮明になっていた。年間1億トン超の輸出攻勢は、世界鉄鋼業の最大の不安要因となっていた。

 しかし、市場メカニズムが効きにくい上、雇用問題や過剰債務問題などを抱える中国では、早期の能力削減は難しいとの見方が大勢だった。第13次5カ年計画で打ち出した当初の削減目標「1億~1・5億トン」に対しても実現可能性を疑問視する声が多かった。

 16年の削減実績6500万トンについても、もともと能力や生産量にカウントされていない「地条鋼」や休止中の設備が含まれていたとされ、真水での削減量がどの程度あるのかという懐疑的な見方も消えなかった。

 しかし、17年に入ると中国政府の本気度が次第に明らかになってくる。16年11月に公表した鉄鋼業調整・高度化計画では、上位10社の占有率引き上げなど従来の施策の焼き直しが盛り込まれた一方で、「地条鋼」の撲滅を表明。さらに同月の国務院常務会議では未認可プロジェクトを実施する企業の取り締まり強化が打ち出された。これと並行して政府や中国鋼鉄工業協会(CISA)の担当者らで組織する過剰能力削減部署間合同会議による監査も本格化した。

 地条鋼問題では今年に入り、6月末までに全廃させるという政府方針を受けて、CISAが地条鋼の定義を明確にするなど積極的に介入。中国政府によると地条鋼に代表される違法操業はほぼ全廃されたもようだ。

 地条鋼は削減目標の枠外で、真水の削減量には入らないが、地条鋼全廃を打ち出した政府の強い姿勢は、本筋の能力削減にも通底している。合同会議による現地監査に代表される中央の指導を受けて、地方政府も環境規制を守らないメーカーなどへの取り締まりを強化。河北省では、複数のメーカーによる上工程統合の試みも始まった。今年7月までの削減量5千万トンには、地条鋼など枠外の削減量は入っておらず、非効率設備の削減が着実に進んでいることをうかがわせている。

 中国政府は少なくとも削減目標の7割以上を18年までに達成する方針。真水の削減に取り組んだ17年は重要な一里塚となるが、これまでの取り組みを見る限り一定の成果が出ているのは確かだ。

 22日の経済界合同訪中団と中国・工業情報化省との交流会では、同省原材料工業司の呂桂新副巡視員が鉄鋼業などの構造調整の進ちょくについて報告。「高度化計画は着実に実行されている」と強調した。

 問題は今後も削減努力を継続できるかどうかだ。今年春以降の鋼材市況回復もあって、中国では増産機運が高まっている。地条鋼の生産が既存設備の稼働率を引き上げている面があるとはいえ、休止していた設備が再開するのではないか、との懸念も残る。

 だが、これまでの能力削減の取り組みが転換する可能性は低い。事業環境が好転しているとはいっても、中国鉄鋼メーカーの売上高に占める利益率は同国製造業の平均を下回る3%程度にとどまっている。また、省をまたぐ鉄鋼メーカーの再編も昨年の宝鋼―武漢以降、表面化していない。中国政府にとっては「いまだ道半ば」という状況だ。

 中国は鉄鋼業だけでなくアルミや板ガラスなど他の素材産業でも過剰能力問題を抱える。鉄鋼業の構造調整の成否は、他産業の構造調整・高度化にも大きな影響を及ぼすだけに、「鉄鋼業の構造調整は中国政府にとって失敗できない取り組み」(高炉メーカー)といえる。中国鉄鋼企業がこのところ海外投資を加速させるなど新たな不安要因もくすぶるが、中国鉄鋼業の構造調整は予想外のスピードで進展していく可能性が高い。(北京発=高田潤)

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