金属行人(11月24日付)

 重要文化財に指定されている建造物に屋根材不足という課題があるという。職人の高齢化で、伝統的な屋根材である桧皮やこけらなどの入手、施工が難しくなっている▼「供給」の悩みが持ち上がる一方、重要文化財に指定される建造物は年々増えている。2009年時点の約4300棟が今は4900棟を超す。葺き替えも必要で「需要」は増す一方だ。そこで、とチタンを用いた恒久的な屋根材を提案する声を聞いた▼チタンは耐久性と軽さが売り。瓦として使えば屋根の補修はほぼ要らず、耐震性も増す。建造物の保護に最適というわけだ。ただ重要文化財の現状変更には文化庁の許可が要る。採用には厚い壁があるという▼この壁を越えるという観点では大きな一歩だろう。重要文化財である善光寺(長野市)の経蔵に新日鉄住金のチタン箔が採用された。屋根材としてではないものの、重要文化財に初めてチタンが使われた事例になる。天井・屋根部の耐震補強工事でブレースを固定するための「定着部材」として使われた▼伝統工法を守り抜くことも確かに重要だが、守りたくても守りにくい時代に入ってきたのもまた事実。チタンの活用も一案だろう。議論を深める時期かもしれない。

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