第1部「無縁」(8) 隠れた貧困、支援届かず 「生き延びられる環境を」

ひきこもりの経験があり、事件の裁判を傍聴した梅林秀行は「貧困問題ととらえていれば、追い込まれなかった」と話す

 2004年に大阪府東大阪市で両親を殺害したとして、長男の藤田真一(ふじた・しんいち)(49)=仮名=が逮捕された事件は、ひきこもりの「長期化、高年齢化」に社会がどう向き合うべきか、重い課題を突き付けた。あれから10年余り。深刻さは増している。
 自治体は危機感を募らせ、独自にひきこもりの調査を開始。最近では茨城、佐賀、長崎など各県で中高年が際立つとの結果が明らかになった。国も40歳以上を対象に実態把握を進める方針だ。
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 真一と両親は、電気やガス、水道を止められるほどの経済的な苦境に立たされながらも、自分たちの力で切り抜けようとして孤立を深めた。
 「ただのひきこもりではなく、貧困の問題として対応していれば、あれほど追い込まれなかったのではないか」。真一の姿を法廷で見守った梅林秀行(うめばやし・ひでゆき)(43)は、事件をこう振り返る。
 大学進学を機に、徐々に外出できなくなった梅林は真一とほぼ同世代。親の紹介で支援団体につながり、事件当時は京都市でひきこもりの人の支援をしていた山田孝明(やまだ・たかあき)(64)の下でスタッフとして働いていた。
 「親から保護されているうちは生きられるが、それがなくなれば餓死か自死」。親が命綱だったかつての生活で、梅林が持っていたリアルな感覚だ。自分が直面したかもしれない“未来”を事件に見たような気がした。
 梅林は支援の中で、貧困状態だったり、障害があったりする当事者に出会ってきた。「苦悩に寄り添いながら、生活保護の受給や障害者手帳の取得など、制度を利用して、まずは本人が生き延びられる環境を整えるべきだ」
 真一のケースのように、経済的に追い詰められた人を広くサポートする国の生活困窮者自立支援制度は15年に始まった。ひきこもりの場合にも対応できる仕組みだ。
 減刑を求める嘆願書を書いた精神科医の宮西照夫(みやにし・てるお)(68)は「ひきこもりは不登校など教育の問題とされ、医療的なアプローチがなかった」と指摘する。ひきこもりの人にはもともと精神疾患があったり、閉ざされた生活で二次症状が現れたりすることもあるという。
 福祉や医療、教育のはざまに陥り、置き去りにされる人は少なくない。(敬称略)

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