【特集】あらためて加計「獣医学部」(2) 前知事の証言、前川氏の評価

安倍晋三首相(左)と加計孝太郎理事長(右)

 ▽「会見すべきは加計理事長」

 以降、小泉内閣から始まった構造改革特区制度、その後の安倍内閣の国家戦略特区制度を使って、今治市への獣医学新設は15回申請されたが、「15戦全敗」(加戸氏)となった。日本獣医師会の反発が特に強く、加戸氏によると、元衆院議員で獣医師会顧問北村直人氏と獣医学科を持つ日本大学総長(当時)の酒井健夫氏が愛媛の知事室を訪れ、特区申請を取り下げてほしいと迫られたという。

 ―加計学園の加計孝太郎理事長は依然、会見など公の場に登場していない。

 「安倍さんを利用しなかったが、(ほかの)政治家はよく回っている。下村博文さん(自民党幹事長代行)への献金(疑惑)など質問されることが嫌なのでしょうね。腹心の友なら会見に出るべきでしょうね。もし私が加計孝太郎さんなら率先して総理のピンチを救います。本当の友達ならね。前川喜平が最初に会見した後に、『私は一度たりとも総理と仕事の話をしたことがない』と会見すべきだった。10年間も学部新設が蹴飛ばされている。何かおかしいと言うべきです」

 ▽「虎の威を借るキツネ」

 加計問題は、内閣府や首相側近らと文科省とのやり取りで「総理のご意向」「官邸の最高レベルが言っていること」と記録文書が存在したことから、首相サイドの指示の有無、役人の忖度(そんたく)に注目が集まった。「虎の威を借るキツネ」という言葉は通常はネガティブに使われるが、加戸氏はそれを「霞が関の文化」の一つだという言い方をした。省庁間で見解が違う場合に、役人が首相や閣僚の名前を出して話をまとめようとすることは少なくない。実際に圧力がなくてもそうだという。

 さらに、前川喜平氏は、事前に安倍首相と加計理事長が友人であることを知らされ、先入観や思い込みがあって判断を誤ったというのが加戸氏の見解だ。

 前川氏は6月の会見で獣医学部認可について政府の決定プロセスを検証すべきだと主張、同時に自身が出会い系バーに通っていたと読売新聞が5月に報じたことについても触れ「私に対する個人攻撃だと思われる記事が掲載された。個人的には官邸の関与があったと考えている」と言い切った。この件についても筆者は加戸氏に聞いた。

 ―6月の会見で前川氏は自身の報道のされ方についても語った。

 「新聞に書かせることかと腹を立てる気持ちを私は分かります。官邸横暴とのろしを上げて反発することは分かる。しかし、安倍内閣打倒に使われてはいけない。国会で(参考人として)総理の前で、部下が作ったメモが100%正しいと、メモが真実だとあそこまで言うから、私も切れて、言わなくてもいいことを言いました」「小泉内閣で打ち出した義務教育国庫制度負担金制度の廃止、(公立小中学校の教職員給与の国負担分を2分の1から3分の1に引き下げた)方針に愛媛県知事として反対だった。前川喜平は(文科省の)担当課長だったが、『奇兵隊、前へ!』と題したブログで政治が間違っていると徹底抗戦した。だから、気骨ある男だと一番評価していた。今回はその思い入れが逆の方向に行ってしまった」

  ×  ×  ×

 加戸氏は83歳。岡山理科大獣医学部の新設計画が今月14日に認可されたとき、「ばかげた騒動で理不尽ないちゃもんだったが、雨降って地固まるとなればいい。世界一流の獣医学部に育ってほしい」とコメントしている。筆者のインタビューでは、文科省OBとして「役人の在り方論」について熱弁を振るっていた。

 一方、安倍首相は、衆院選を控えた10月の党首討論会で、加戸氏の国会証言を全く報じなかったとして朝日新聞を批判、「国民はファクトチェックを」とさえ述べた。実際には首相の事実誤認で証言内容は掲載されていた。最終的な選定作業にはかかわっていない加戸氏の発言を再三取り上げ、首相は自らに問題はないとする姿勢が際立つ。疑惑を本当に解明する対応をしなければ、論点のすり替えと言われても仕方がない。

(共同通信=柴田友明)

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