「電気代を払え」という当局の方針に猛反発する北朝鮮国民

北朝鮮当局が、新型の電気メーターの設置を強引に進めていることはデイリーNKジャパンでも既報のとおりだが、これに対して北朝鮮国内では、反発の声が上がっているという。使っただけの電気料金を払うという当たり前のことに、なぜ反発が起きるのだろうか。

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、北朝鮮当局は今年春に、電気使用量を測る電気メーターを設置せよとの指示を下した。つまり、今までの固定電気料金1ヶ月33北朝鮮ウォン(約0.5円)ではなく、使用量に応じた料金を払えというものだ。

人民班(町内会)の班長がそれを住民に伝えたところ、反発の声が上がった。

それもそのはず、国から供給された電気のみならず、自家発電した電気の料金まで払えというものだからだ。

「自分がカネを出して買ったソーラーパネルで発電して電気を使っているというのに、なぜ国に電気料金を払わなければならないのか」(住民)

電気メーター設置事業は、首都平壌でも地方都市でも反発にぶち当たり、遅々として進んでいない。両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋も、このような政府の方針に対して住民から反発の声が上がっていると伝える。「不当な徴収だ」という声とともに、「自分の力で稼いで生きていく時代だ」という声も上がっているという。

両江道当局は今年夏にも「電気の浪費をなくすことについて」という資料を配布し、住民に電気メーターを購入するように強いた。しかし、設置費を含めて30ドル(約3380円)という非常に高価なもの。ただでさえ凶作と経済制裁で生活が苦しいというのに、設置しようとする人は極めて少ない。

電力部門の幹部でさえも「電気メーターは国が無料で配給するのが筋なのに、住民に負担させようとしている、こんなプロジェクトが貫徹できるはずがない」と疑問を呈しているという。

北朝鮮当局は、主に水力発電で国内の電気の需要をまかなってきた。

しかし、朝鮮半島北部は元々降水量の少ない地域であるため、発電量が足りず、深刻な電力難が続いている。当局が新たに建設する発電所も、水力発電所に偏っている。見栄えがよくプロパガンダの効果が高いからと思われるが、規模の割には発電量が少なく、焼け石に水だ。

そこで、北朝鮮の人びとはソーラーパネルを買い、自家発電を行っている。30ワット用が23万5000北朝鮮ウォン(約3050円)で、コメ56キロ分に相当する高価なものだが、少しでも明るく、自由な暮らしがしたいとの思いからソーラーパネルを買うという。

北朝鮮の人が、国に期待しないのは電気のことだけでない。

北朝鮮では1980年代まで、食料品から住宅に至るまですべてのものを配給するシステムが機能していた。ところが、北朝鮮を援助していた共産圏が崩壊し、非科学的なチュチェ農法などで穀物生産量が激減したことに加え、相次ぐ自然災害で配給ができなくなってしまった。

やがて北朝鮮は未曾有の食糧危機「苦難の行軍」に襲われた。何でもかんでも配給でもらえることに慣れきっていた北朝鮮の人びとは、自分の力で食べ物を得る方法を知らず、次々と餓死していた。生き残った人びとは、市場で商品を売買することを体得した。

北朝鮮の人びとにとって国という存在は、自分たちを生かせてくれるありがたいものではなく、自分たちを抑えつけカネをむしり取る邪魔者でしかないのだ。国営メディアがいくら金正恩党委員長のプロパガンダを行っても、何の効果もないというわけだ。

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