世界でも有数の過酷なリーグ戦として知られるJ2。
その戦いはとにかく長期にわたり、22のチームが42もの試合数をこなす。レギュラーシーズンでは462試合が行われ、熱い戦いが繰り広げられた。
そうしたJ2において、1シーズンのプレー時間が「16分」というのは決して褒められた数字ではない。
それほどの出場時間であれば1試合で消化が可能であり、1シーズントータルで考えると各選手には最大で3780分のプレー機会が与えられているからだ。
しかし、1シーズンの出場時間が僅か16分でもその数字が立派だったと断言できる選手がいる。
大分トリニータMF清本拓己だ。
清本は1993年6月7日生まれの24歳。
関商工高校在学中にオランダに留学し、フェイエノールトへの練習参加を経て2012年1月にエクセルシオールに加入。
フェイエノールトのアマチュアチームにも所属したが、プロには昇格できず退団。2013シーズンに向けたFC岐阜のセレクションに合格してJリーガーになったという変わった経歴を持つMFだ。
そんな清本は昨シーズンから大分トリニータに所属。今季からは完全移籍となっており、心機一転のシーズンとなっていた。
しかし、そんな清本を悪夢が襲う。3月6日に行われたトレーニングマッチで右膝前十字靭帯を損傷し、全治8ヶ月という大怪我を負ったのだ。
シーズン開幕直後の靭帯断裂は選手にとってショックが大きい。
なぜなら、心身ともにしっかりと準備してきた直後の長期離脱であるからだ。シーズン開幕直後に、シーズンが終了する前のことをイメージしてリハビリするというのは想像以上に難しいはずだ。
J2第2節が終了していたこの時点で、清本は2試合に出場。いずれも終了間際の途中出場であり、プレー時間は僅かに11分間であった。
しかし、清本は諦めずにリハビリを続けた。するとシーズン終了前に怪我を完治させ、最終節のロアッソ熊本戦でベンチメンバー入り。
0-1とリードされた84分に投入されると、途中出場からわずか66秒で結果を残す(02:43から)。
川西翔太のふわりとしたクロスにジャンピングボレーで合わせ、同点弾をマークしたのだ。
清本にとってこの日は259日ぶりの公式戦だ。復帰戦のファーストタッチでこんなに美しいゴールを決めるなんて、一体どれだけ感動的なのだろうか。
その苦労を知っているからだろう。「ミスター大分」と呼ばれ、この試合で解説を務めていた高松大樹も興奮を抑えられなかった。
結局試合はこの後大分が逆転勝利を収め、劇的な形で勝点3を獲得。清本がこの勝利に貢献したのは言うまでもない。
試合後、清本はこのゴールについて「打った瞬間は、ボールは見えなかったが、着地してから見たら“神コース”に入っていて、なんだかよく分からなかった」とコメント。
片野坂知宏監督からは「俺の独断で入れる」という話があったそうで、「選ばれた以上はチームのためにやるしかないと思った」という思いでこの試合に出場したようだ。
清本の2017シーズンはわずか16分の出場で幕を閉じた。
1年ほとんどが辛く大変な思い出であったはずだが、それでもその復活劇に多くの大分ファンが心を震わせ感動したに違いない。
ちなみに清本の1ゴールあたりの時間数(16分)は、全J2選手の中で最短の数字である。
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