黒字の金曜、先行きは

 大ヒットした日本最古のキャッチコピーらしい。300年以上も前、江戸で呉服店を営んだ越後屋は引き札(チラシ)にこう記して何万枚も配ったという。「現金安売り 掛け値なし」▲当時は呉服屋の方が上級武士などの屋敷に出向いて売り、代金はツケにして盆や暮れにもらうのが普通だったから、店頭で、しかも安値の正札で売るのは画期的だったらしい▲コピーライター川上徹也さんの本に教わった。庶民にとって、呉服に手が届くとは一大事。「現金安売り 掛け値なし」の売り文句は、大多数に「自分と関係のあるニュース」と思わせた名キャッチコピーだという▲今だと「大創業祭」などと銘打つセールの広告を見聞きする。なるほど「お祭り」とうたわれると、何やら身近なニュースのような▲聞き慣れないが、こちらはどうだろう。流通各社は、米国の年末商戦の号砲となるブラックフライデー(黒字の金曜日)にちなんだ安売りの最中。消費者には心弾むニュースになり、売る側も、振るわないとされる11月の売り上げアップになればいいが、業界は競争激化でひたすら安売りを続けざるを得ないと聞く▲掛け値なしに“黒字の商戦”となるかどうか。そういえばブラックフライデーに着想を得た日本のプレミアムフライデーは、どうも影が薄いが。(徹)

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