研究の現場で(3) 「U30のコンパス」カメの化石にロマン求めて   甲羅に映る太古の世界

 

 

 黒く輝く破片を見つめ、大きさや厚さ、特徴を手早くノートにスケッチする。福井県立恐竜博物館の職員 薗田哲平 (そのだ・てっぺい) さん(31)は、日本で数少ないカメ化石の研究者だ。世界中の試料が対象になる膨大な作業だが「絶滅した動物に迫るロマンには代えられない」と目を輝かせる。

 カメは約2億年前に地球に現れた。新種かどうか調べるには、甲羅の形や特徴が手掛かりだ。甲羅のつなぎ目の隙間がわずかに広かったり、先端がとがっていたりといった小さな違いが種類を分ける。ばらばらで見つかることがほとんどで「完成図もパーツがそろっているのかも分からないジグソーパズルです」。

 カメは現代も世界中に生息し、食生活や環境により形態もさまざまだ。そのため、化石の特徴と似た現代のカメを見つければ、当時の様子を推測することができる。絶滅してしまった恐竜や、生息域が限られるワニでは、そうはできない。

 国内の研究者はわずか数人。2015年1月に薗田さんが新種と特定した化石は、福岡県で20年前に発掘されたまま、調査されずに保管されていたものだ。「たまに『あれ?』と思った化石を見かけることがある。勝手に調べられないから、わーっと思いながらもとりあえずスケッチするしかない」と話す。

 福井県勝山市にある白亜紀前期(約1億2千万年前)の地層を発掘する作業が一番楽しい。ハンマーを片手に作業員に指示を出す体力勝負の現場だが、甲羅の破片が見つかれば疲れは吹き飛ぶ。

 博物館職員である以上、刊行物や報告書の作成も大事な業務だ。特別展の担当になれば多くの勉強が必要で、専門外の仕事も多い。論文の執筆は土日に出勤してまとめねばならない。

 どんなに文献をあたっても、種の特定ができないことはある。それでも、福岡県で発掘されたカメは、薗田さんが調査しなければ新種とは分からなかった。「新しい発見をするたび、もっと研究を続けたいと思うんです」。意欲は増すばかりだ。(共同=桑島圭29歳)

▽取材を終えて
小学生のころに恐竜が好きだったため、福井県立恐竜博物館が記者会見をすると聞くたび、わくわくしながら取材をしていました。薗田さんとは昨年、新種のカメを発見したという会見でお会いし、同年代ということで世間話をした際に、大昔の動物の研究者はどんな人間なのかと思ったのが取材のきっかけです。

 薗田さんは取材中、要領の得ない質問や、何度も電話で問い合わせをしても常に穏やかに対応してくれました。また博物館で、担当している展示物について他の職員からトラブルの報告を受けても全く動じずに相談にのっていた場面も目にしました。自分だったらどれも口調がきつくなってしまうか、動揺してしまうような事態に淡々と応じる様子からは、とても忍耐強い性格が伝わってきました。

 研究室での作業を見せてもらうと「黙々と」進む作業がとても多いことに気づかされました。1回の発掘で約100点も出てくるカメ化石の破片の確認。出てきた破片を復元してこれまでに発表されている論文との比較。そうした作業の一切を、たいしたことはないといった様子で話す薗田さんは、取材中に感じていた我慢強い姿と一致しました。

 ただ、薗田さんはそういったことを苦しいと思っているようではなく、特に研究では一つ一つを楽しんで取り組んでいました。

 同世代の友人に、今の仕事を一生続けたいかという話題を出すと、みな一様に首を傾けます。今回の取材で、同じ年代ながら自分の仕事に迷わず取り組んでいる人に会い、どうすれば自分はそのような仕事ができるのかということを考えさせられました。

【一口メモ】発見から広がる想像

 苦労してカメの化石を発見しても、解明されるのは太古の世界のほんのわずかな部分にすぎない。だが、存在を確認できれば、壮大な世界の片りんは確実に見えてくる。例えば、気温が高いところには大きい種類のカメが生息するため、化石のカメの大きさから当時の気温が推測できるのだという。恐竜図鑑の中では紹介ページの少ない脇役に、興味が湧いてきた。
(年齢、肩書などは取材当時)

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