遺族と対話、感謝を胸に   孤独死見つめる特殊清掃員  死と向き合う(1)「U30のコンパス」

 死は誰にも必ずいつかやってくる。病室で迎える最期もあれば、1人暮らしの部屋に訪れることもある。突然の事故で命を落とすこともある。葬儀の場で見守る僧侶、孤独死の後の部屋を片付ける特殊清掃作業員、事故現場で救命に当たる救急隊員。それぞれの現場で、ときに悔しさを握りしめ、ときに模索しながら、目を背けずに死と向き合って働く姿を届ける。

 

 

 

 形容しがたい臭いが部屋から漂う。ベランダ越し、カーテンの間からあおむけに倒れた男性が見えた。「うわ、亡くなっている」。警察? 遺族? どこに連絡したら…頭が真っ白になった。

 2007年、不動産会社に勤務していた峯田知明(みねた・ともあき)さん(34)は25歳の時、住民からの苦情で訪れたマンションで初めて孤独死の現場を目にした。すさまじい光景だった。

 さまざまな職を経て、13年に30歳で不動産会社時代の同僚と、マンションの管理やリフォームの会社「テオトリアッテ」を金沢で起業した。翌年、遺体運び出し後の現場をきれいにする特殊清掃事業も始めた。

 遺品の処理や分類から始まり、床や壁の内装工事、海外から独自に輸入した薬剤による消臭殺菌まで行う。作業は2週間前後。少しでも異臭を感じたりハエが1匹でもいたりすれば何度でもやり直す。頼まれれば供養の代行や家の売買、相続の相談まで請け負った。事業を始めて1年間で約30件の清掃をした。

 厚生労働省によると15年の1人暮らしの高齢者数は全国で624万人。「特殊清掃の需要はどんどん増えるだろう」と峯田さんは感じている。

 峯田さんは14年5月に依頼された現場が忘れられない。80代の男性がこたつのそばで亡くなっていた。死後5日たっていた。「家は取り壊すけど、四十九日の供養は生まれ育った思い出深いこの家で」。男性の娘の希望に沿うよう、消臭殺菌や内装の張り替え、遺品整理や僧侶の手配をした。遺族から人となりを聞き取り「故人はこうしてほしいはず」と思いを巡らせ、庭の草むしりもした。

 「自分たちでは絶対できなかった、良い供養になりました」。遺族から帰り際にもらった言葉。この仕事をして良かったと思った瞬間だった。

 

 初めは「清掃しといて」と投げやりなお客さんとも、対話を繰り返すうちに故人の思い出話を聞き出すことができる。感謝される機会が増えると「故人もお客さま」と思えるようになった。きつい現場も多いが、嫌だとは思わない。

 大事にしたいのは、遺族が死を知った後のことだ。「後ろめたい気持ちもあるかもしれない。でも、故人への思いを聞いた上で清掃や遺品整理ができたら良い供養になる。孤独死をタブー視するのは悲しすぎる」

 峯田さんは、いつか自分の技術や知識を生かして、新規参入する業者にノウハウを伝えたいと考えている。(共同=国枝奈々25歳)

 

 

▽取材を終えて

 峯田知明さんの取材を終え、「誠実な人」と言う印象は最後まで変わらなかった。何度も遺族と対話を重ねての遺品整理や、見えない場所も徹底的に消臭殺菌する仕事ぶりに圧倒されてばかりいた。遺品1つを動かすだけでも、タンスの傷を1つ見つけただけでも「ああ、こんな人だったんやな」とその人が生きた証しが鮮明になっていくのだと、峯田さんは言う。

 記者としての私も見習うことは多い。事件や事故で、あってはならない形で亡くなった人を、ニュースでは大きく取り上げる。それは、事件や事故が無くなってほしいという思いの他に、1人1人の死を忘れないことが最大の供養になると思うから。時代の流れを読み、繊細な仕事で故人を弔う峯田さんの働き方は今後も手本としていきたい。
(年齢、肩書などは取材当時)

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