下心、隠し構え

 長崎の被爆歌人、竹山広さんに一首がある。〈下心、隠し構えという部首のあるを君らは知るか知るまい〉。漢字の部首の「下心」とは例えば「惑」という字の脚の部分のこと。隠し構えとは、例えば「秘匿する」の「匿」という字の「若」を囲む部首らしい▲歌人が「知るか? 知るまい」と言う「君」が誰かは分からないが、この一首をかみしめるべき当節の「君」ならば、国に違いない▲海外に住む被爆者や遺族が国に損害賠償を求めている集団訴訟で、国は一部の遺族との和解に応じない方向に転じたという。被爆者が亡くなって20年たった場合は、請求権が消える「除斥(じょせき)期間」に当たる-としている▲昨年9月からの唐突な方針転換であり、「手のひら返し」と難じられるのも当然だろう。過去、在外被爆者を長らく「被爆者援護法の適用外」としてきた国は、線引きを違法として相次ぎ裁判を起こされ、ようやく和解を選んだいきさつがある▲なのに、いきなり相手を惑わせ、ほしいままの恣意(しい)に傾く。被爆者を住む場所で線引きしたことに反省あっての和解のはずだが、誠意はどこかに秘匿したのか、そもそもなかったのか▲国語辞典の「下心」には「たくらみ」の語義がある。「思いやる」「志」…。携えるべき下心ならば他にいくらでもあるというのに。(徹)

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