ワンルームはまるで植物園 ブルーベリーの花を咲かせてみたら 60種ひしめく中で暮らす大学院生(1)「U30のコンパス」

 なぜ人は集めたがるのだろう。関心のない人には全く理解できなかったりするコレクションを、友人から見せられた経験はないだろうか。「収集癖」という言葉だけでは片付けられない、人間のおもしろさを探ってみた。(共同通信名古屋編集部=中尾友香27歳)

 

 

 

 玄関を開けると、もわっとした湿気が広がった。足元には無造作に巻かれた園芸ネットと緑色の支柱。げた箱の最下段に袋詰めの腐葉土。室内には食虫植物や熱帯果樹がひしめく。少し大げさだが、まるで植物園に迷い込んだようだ。

 部屋の主は京都大大学院博士課程で雑草の生態を研究する野村康之(のむら・やすゆき)さん(25)。10畳半のワンルームで、62種類78鉢の植物を育てている。生活スペースは勉強机と本棚、布団1枚分だけ。冷蔵庫には瓶詰めのタヌキモという水草が。「冬を体験させています」と説明してくれた。

 部屋は、植物が育ちやすいことが最優先。育てている種類によっては外出時も冷暖房は付けっぱなしにする。植物が多いせいで室内の湿度は高い。それでも、より高い湿度が必要な植物のために加湿器を準備していたこともあった。

 はまったのは中学生の頃から。大好物のブルーベリーを苗から育て、1年がかりで花を咲かせた。

 「ドウダンツツジに似ている!」

 庭に咲いたブルーベリーの花を目の当たりにしたときの発見は忘れられない。初めてツツジ科だとストンと理解できた。どちらも知っているつもりになっていたが、思わぬ共通点を見つけ、心揺さぶられた。

ブルーベリーの花(野村さん提供)
ドウダンツツジの花(野村さん提供)

 「知っていたのは植物の一生の一部だけだった。育てて初めて分かることがある」

 知らないことを探求する面白さに目覚めた瞬間だった。

 室内のパッションフルーツやマンゴーは、スーパーで買って食べた果物の種から育てた。熱帯果樹は暑い環境さえあればいいと思われがちだ。だが、野村さんは「実は1日の気温差を小さくすることが大事。発芽に必要な最低温度などポイントを押さえれば、誰でも簡単に育てられる」と教えてくれた。

 熱帯果樹は、果実が身近にあっても植物の姿を実はよく知らなかった。育てるたびに知的欲求が満たされた。旅先で食べた外国の果物の種も、植物防疫所で手続きして持ち帰る。種の標本もたくさん作った。気づくと部屋はまさに〝植物園〟になっていた。

 

 

 

 

集めてきた熱帯果樹などの種の標本を部屋に並べてもらった=2017年2月6日、京都市

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