植物の魅力、伝えたい! ワンルームはまるで植物園 60種ひしめく中で暮らす大学院生(2)「U30のコンパス」

 

 

 京都大大学院で雑草を研究する野村康之(のむら・やすゆき)さん(25)にとって、今感じている植物の魅力は何か、聞いてみた。

 「動けないという制約の中で生き残ってきたこと」という答えが返ってきた。特に食虫植物は、虫の捕まえ方などで種類ごとに違った生存戦略のパターンがあるのがたまらないという。

 例えば、ウツボカズラは葉の先につぼをぶら下げ、足を滑らせて落ちてきた虫をためている消化液で捕食する。ゲンリセアは、地下に逆Y字の白くて細い管を延ばし、管の隙間を土の隙間と勘違いして入り込んだ地中の微生物を捕らえる。育てていると、それぞれの生き方が見えてくる。

 動けないとはいえ、毎日を共に暮らしていると「命の躍動を感じる」瞬間に何度も立ち会うことができる。葉を落とした枝が一斉に芽吹くとき、1日で花が開いては閉じるとき…。

研究対象の「チガヤ」を採集するフィールドワークに出る野村さん=野村さん提供

 大学ではイネによく似たチガヤという雑草のDNAを分析し、交配の仕方や地域への分布の仕方などの生態を研究している。午前9時ごろに研究室に入り、おおよそ3時間を実験に、2時間を研究室の畑の世話にあてる。残った時間で論文を書いたり、ゼミの準備をしたりして、帰宅は午後8時ごろだ。

 今の生活ができているのはさまざまな偶然が重なった結果だという。ブルーベリー栽培の驚き、大学で、生きものへの愛情を共有する仲間と出会えたこと…。今は研究の環境にも恵まれている。

 これからは、自分も将来を担う若者に植物の魅力を伝えたい。地方の高校生向けに出張講義を開く活動に参加し、ブルーベリーを育てた体験談や、自分が栽培する植物を実際に見せながら、その生存戦略を解説したりして植物の面白さを語ってきた。

 目指すのは、イギリスで園芸の名手を指す「グリーン・フィンガーズ」がやっているような植物との関わり方だ。指が緑になるほど個々の植物と向き合い、その性質を考える。栽培を通してその植物の個性に合った育て方を探る。植物も次世代の人材も丁寧に育てる、そんな研究者を目指している。

▽取材を終えて

各地の高校生に出張講義をする活動で、植物のおもしろさを語る=野村さん提供

 野村さんは大学のサークルの後輩だ。わたしが学生の頃から「部屋は植物でいっぱい」と聞いていたので、半分怖いもの見たさで訪れた。最初は、見たことも聞いたこともない奇妙な形の植物に目がいったが、取材を終えて印象に残ったのは、野村さんの強い好奇心だった。食べ終わった果物の種を植えるという発想は、自分には全くなかった。

 ふとした疑問をなおざりにせず、自分の手で確認して自分なりの結論を出す喜び。毎日見ている植物たちの微妙な変化に気づける楽しさ。それらを原動力に、さらに「植物の生き方」の探求を続ける野村さんと話していると、植物に全く詳しくない私もわくわくした。自分の好奇心に素直に、誠実に向き合うエネルギーをもらえた気がした。

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