【トップインタビュー 山陽特殊製鋼・樋口眞哉社長】鋼材生産で構造改革、小径・小ロット化に対応 研究開発、中長期視点で

――業績から伺いたい。上期の経常利益は65億円で、前回予想と比べわずかながら上振れした。通期予想(経常利益118億円)は変えていないので下期経常利益は上期より落ちる。その根拠は?

 「上期は原料コスト変動と製品価格変動のタイムラグに恵まれた面もある。4月からスクラップ価格が下落したため、その影響で上期を通じて原価面で安定していた。一方で製品価格の値上げ効果があったため7~9月期でマージンが改善したが、下期はこのパターンが崩れる。6月からスクラップ価格が大幅に上昇しているほか、シリコン、バナジウム、電極、耐火物など副資材も上昇してコスト高になる。特に10~12月期は厳しくなるだろう」

――需要面では下期も心配ないと?

山陽特殊鋼・樋口社長

 「自動車は中国、インドを中心に世界的に堅調だ。建機も鉱石など一次産品の需要増や中国のインフラ投資でブルドーザーやダンプトラックの生産が忙しい。また人手不足への対応から産業用ロボットに活気が出ている。半導体製造装置も、半導体の極薄・積層化ニーズに対応した高度な製造装置の需要が増えている」

 「当社もフル操業が続いており、安全・安定生産に力を入れているがデリバリーは極めてひっ迫している。特殊鋼の需要分野は自動車、建産機など最終製品になるまでの足が長く、部品メーカーも材料の手当てを多めにしている可能性もあるが、それを差し引いても特殊鋼需要は強い」

――山特はここ3年間、ROS8%前後と群を抜く高収益を維持している。どこに強みがあるのか?

 「中期経営計画では9%を目標にしており、まだ途上だ。当社主力の軸受鋼は、特殊鋼の中でも特に厳しい品質と信頼性が求められる。競合が少ない高級な分野に特化し、そこで高い競争力のある生産プロセスを持っていることは大きい」

――今年度からスタートした中期経営計画について聞きたい。環境認識では『国内特殊鋼需要は長期的には減少』とみているが、その根拠は?

 「日本の自動車保有台数(ストック)は国民2人に1台の6千万台。新車販売は買い替え需要を主体に年間500万台程度だが、人口の減少に連動して販売台数も落ちる。今後、国内では自動車の生産能力増強投資は期待できないだろう」

 「また、自動車のEV化は大気汚染問題を背景に中国、インドを中心に進むとみている。地球資源や環境問題から言えば究極の選択はFCV(燃料電池車)ではとの見方もあるが、世界自動車市場の1位と3位の中国・インドでEV化が進展すれば、それが世界のトレンドになる。エンジンやトランスミッションの特殊鋼は減るだろう。一方、EV化によって負荷が増大する部品等の新たなニーズもある。当社の強みである高信頼性・高品質が生かせる分野を狙っていく」

――鋼材事業では生産構造改革を進めることになっている。

 「生産の多くを占める第2工場(150トン製鋼・第2棒線)は1982年に立ち上げた工場で35年経過している。設備のメンテナンスは続けており50年以上使える設備になっているが、基本的には当時の需要構造を前提としたラインだ。需要構造の変化では小径化や納品のジャストインタイム化、小ロット化の動きが加速している。第2棒線のボトルネック解消や物流拠点の新設を含めた生産ラインの整流化を図り、需要構造変化が進んでも対応できる体制にしたい。トータルの生産トン数は変わらなくとも付加価値が高くなる分だけ売上げ金額が増える形になる」

――第1工場(60トン製鋼・大型圧延・鋼管圧延)の生産構造改革は?

 「すでに50年前後経過するラインでもあり、レイアウトも含めた大がかりな改造を考えている。第1、第2工場とも向こう30年くらいの将来を見据えた工場にする」

――非鋼材事業の拡大をどう進めるのか?

 「粉末事業は、第2工場が8月から本格稼働して戦力化しており、数量面では月次記録の更新が続いている。用途面でも磁気シールド分野や3Dプリンター分野などに拡大している」

――素形材は?

 「タイは昨年、量産を開始し、安定した生産を続けている。メキシコは第1期工事が完了し、既にサンプルの製造を開始している。現在、自動車部品メーカーの承認取得作業を進めているため、いまだ本格生産には至っていないが、素形材は日本・中国・米国・インド・タイ・メキシコの6拠点でのグローバル供給体制が整った」

――中期経営計画では『研究開発の強化』もテーマに挙げている。

 「従来から研究開発には積極的に投資してきたが、新たに『研究開発企画室』を立ち上げるとともに、鋼種・プロセス別の組織から商品開発と基盤研究を行う機能別組織にした。3~5年先の変化でなく20年先、30年先に世の中がどう変化しているのか、AI化や自動運転化が進展すると特殊鋼はどうなるのか、自動車のEV化によってどの部品が残りどんな特性を持つ部品が増えるのか、航空宇宙分野ではどうか。そういった中長期の視点で特殊鋼の行き先を考えていくよう指示している」

――『人材確保』では3年で150人採用する計画になっている。

 「女性活躍支援や再雇用制度の改善を積極的に進めているが、人員の断層や団塊を生じさせないために、毎年、一定数の新人を採用していくことが大事だ。業績によって採用数を変えるのではなく安定的に採用していく」(小林 利雄)

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