【ベトナム新日鉄住金の事業戦略】〈赤星哲也社長に聞く〉インドシナ半島と台湾で受注拡大 「グループ全体の存在感高める」

 新日鉄住金は、ベトナムでの建材需要捕捉に注力。昨年10月にはホーチミン事務所を現地法人化したほか、同年12月にはハノイ事務所を新設するなど着実に歩みを進めている。ベトナム新日鉄住金社長でハノイ事務所の所長も兼務する赤星哲也社長に、ベトナム市場と同社の戦略について聞いた。(ホーチミン発=村上 倫)

――ベトナムの需要動向は。

 「見掛け鋼材消費量は2015年にタイを抜いてアセアン地域でトップとなり昨年は2200万トンだった。建材向けの比率が飛び抜けて高いことが特徴でインドネシア、マレーシア、タイなどが60%程度、フィリピンでも80%程度であるのに対し、ベトナムでは昨年93%が建材向けだった。橋梁、道路、港湾などの土木用途と富裕層向けを中心としたマンションがメーンとなっている」

ベトナム新日鉄住金・赤星社長

 「ベトナムの見掛け鋼材消費量の成長率はここ3年ほど20%を超えていたが、ベトナム鉄鋼協会は富裕層向けのマンション販売の一巡で10%まで低下するとしていた。しかし、通貨の信用力への不安などを背景に中産階級の購買意欲が高く想定よりもマンション需要が落ちなかった。今年1~9月までの消費量の伸びは14%で、最終的には従来同協会が想定していた2450万トンを上回るとみている。マンション需要は今後も続くだろう」

 「加えて、来年にはアセアン域内で自動車の輸入関税が撤廃され、自動車のさらなる需要の伸びが見込まれるが、すでにベトナムの交通渋滞はひどく、これ以上悪化すれば都市機能がまひする。国民の不満に政府は敏感で、ここ5年でホーチミンやハノイを中心に地下鉄や道路の高架化・地下化を相当進めている。ベトナム交通省の予算もその前の5カ年計画に比べ数倍に拡大し、その8割がインフラ投資だ。さらに天候不順でホーチミンなど南部で洪水の発生が増加し、メコン川上流で中国やラオスがダムを建設し取水したことで、海水が逆流し田畑の塩害も発生している。これを防ぐために水門などのインフラ整備がかなり出ている。総じて今後も建設インフラを中心に鉄需は伸びていくと確信している」

――ホーチミン事務所の現地法人化から約1年がたちました。

 「これまで進めてきた基準化などの鉄化推進に加え、現地法人化によってライセンス範囲が広がり、プロジェクトへの設計織込み活動が直接可能となった。今年2月には総務系の人材を1人増員し4月にはハノイ事務所、7月にはホーチミンに土木技術者を増員し、インフラ向け製品の設計織り込み活動を幅広く行う体制を整えている。ベトナムにおける建材需要の拡大に伴い、当社の機能も急拡大している」

――今後はどのような戦略を。

 「鉄化推進のみを進めていた段階から、この10年でベトナムの鉄需も格段に増加し、個別プロジェクトへの設計織り込みも並行して行う段階へと移行したと感じている。ベトナムに軸足を置きつつ、ミャンマーやカンボジアなどインドシナ半島全域と台湾までのプロジェクト捕捉と織り込み活動を一挙に進めていく。存在感を発揮していきたい」

 「また、新日鉄住金グループ全体での存在感も高めていく。特長を生かしてさまざまな商品を一つのプロジェクトに入れていきたい。すでにハノイの環状3号線プロジェクトでは、従来新日鉄住金エンジニアリングの製品だった回転圧入鋼管杭『NSエコパイル』約4千トンを当社が新日鉄住金エンジと協働で織り込みベトナムの鋼管杭合弁、NPVが製作、さらに日鉄住金建材が防音壁を納入するというスキームで進め、受注のめどが立ってきた。4社で活動できたことを個人的にも非常に嬉しく思っている」

 「さらに今年度は新日鉄住金ステンレスの独自製品である二相ステンレス鋼をホーチミンの水門に適用した。強度が高くコンパクト化できるため水門を軽量化でき、基礎に用いる鋼管矢板を小径化し、全体コストは普通鋼を用いる場合と同等に抑えることができる。1社では不可能なメリットの実現を可能にできる取り組みだと思っている」

――ハノイ事務所開設の効果は出ていますか。

 「鉄化推進にあたり政府機関や設計コンサル、大学などが集中するハノイは重要だ。ハノイ事務所の開設で情報の厚みや迅速性、活動の幅が広がるなど大きな効果が出ており、プロジェクトは従来に比べ数倍把握できるようになった。また、ハノイのゼネコンや設計コンサルに対しても物理的のみならず精神的な距離感も縮まり、非常に重宝していただいていると感じている」

――上工程を東南アジアで保有する考えは。

 「アセアンでの鉄源自国化の動きはあるが、現時点では他の高炉計画への参画も含めて検討していない。需要に近い下工程をこれまで通りしっかりやっていくことが基本だ。少なくとも建材事業においては、商品価値を高めて下工程の商品をしっかり売っていく能力を身につけることが大事だと思っている」

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