【新日鉄住金の油井管戦略】18年上期に向け値上げ加速、ハイエンド・環境対応製品で差別化

 新日鉄住金が製造する油井管(OCTG)の需要回復が鮮明になっている。原油価格の上昇を受け、メジャー・独立系石油会社(インディペンデント)の石油・ガス開発需要が増加。今後も堅調な需要が見込まれるため、同社は安定供給体制維持の観点から、18年上期までをターゲットに現行価格比10%値上げを開始する。また、得意とするハイエンド品、環境対応製品などで差別化を図っていく。

 原油価格は昨年初に一時1バレル=30ドル台を割り込んだ(WTI先物取引)がその後回復基調に転じ、足元50ドル台半ばで推移している。オイルメジャーの第3四半期(7~9月)業績も急激に回復。米国のシェール開発ではパーミヤンなどブレークイーブン(損益分岐点)が30~35ドルの鉱区もあり、メジャーは来年以降開発投資を増やすことが見込まれる。

 油井管の最大需要地である米国の稼働リグカウントは、昨年5月に現行統計が始まった1968年以降過去最低の404基になった後、徐々に回復。足元、多少の増減はあるものの900基前後で推移している。

 米国内では、掘削は完了しているが生産を開始していない井戸DUC(drilled but uncompleted)が7300カ所ほどある。石油輸出国機構(OPEC)は今のところ来年12月まで協調減産体制を維持する見通しだが、今後の油価の動向によってはさらに米国内での生産用油井管需要が活況になる可能性もある。

 新日鉄住金は油井管需要がボトムの時も、国内主力ミルの和歌山製鉄所は7割操業を維持していた。ベースカーゴとして、油井管販売量の5~6割を占めるスタットオイル、シェル、BP、エクソン・モービル、ペトロナスの5大オイルメジャー向けをはじめとした長期契約(長契)販売が寄与した。

 昨年、BP、シェル、スタットオイルとの長契を更新。今年には、クウェートの国営石油会社向けの耐サワー材を中心とした契約やUAE向けの契約など大型テンダーを新たに受注した。今下期に入ってから、和歌山製鉄所は熱処理やねじ切りの精整工程も含めてフル生産状況になっている。

 世界的な油井管需要回復に合わせて、価格の改定も少しずつ進めてきた。新日鉄住金は2015年4月以降、底値圏から約2割の値上げを実施。今後、スポット契約中心に現行値圏内からさらに10%の値上げを目指す。同じく、米国では直近テナリスやUSSが油井管で50ドルの値上げを表明しており、他の現地メーカーの追随動向が注目される。

 新日鉄住金は今後、引き続き長契をベースカーゴにスポット案件の捕捉、サプライチェーンマネジメント(SCM)の深掘りに注力。製品とビジネスモデル双方で差別化を図っていく。「カーボン鋼とハイアロイ(高合金)油井管両方の製造が可能な唯一の一貫サプライヤー」の強みを生かす。また、住友商事との協業・コンビネーションによるトータル・ソリューション・サービスの供給体制、グローバルとローカライゼーション双方への対応を深化させる。

 製品面では得意のハイアロイなどのハイエンド品のほか、特殊ねじ継手分野で「クリーンウェル・ドライ」などの環境対応型製品・技術で差別化。和歌山製鉄所の精整ラインの設備投資も実施しており、メジャーでの採用実績を増やしてスポット契約などでの拡販を図る。(後藤 隆博)

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