【第2回】離島に迫る再稼働の影 原発31キロ、山口・平郡島  「運動の力は暮らし」

平郡島の海辺を歩く森田修さん。左奥には中国電力上関原発建設予定地の上関町長島が見える=山口県柳井市(撮影・堀誠)

 山口県柳井市の離島、平郡島。南端の五十谷(いや)海水浴場は、島内では珍しい純白の砂浜だ。波打ち際に立った森田修さん(66)は「あれが長島、上関原発の予定地」と島影の一つを指さす。平郡島から約13キロしかない。
 そのまま南を向くとかなたに愛媛県の佐田岬半島。再稼働した四国電力伊方原発の白い建屋が光っている。平郡島は、伊方原発の事故の発生に備える30キロ圏内からわずか1キロ外れる。上関が建設されれば2原発の挟み撃ち。ただでさえ少子高齢化が進む島に、原発政策が影を落とす。

 

 ▽逃げ場なし

 

 秋も深まったある日、森田さんは家族や仲間とサツマイモを収穫した。温暖で日当たりが良く、戦後、島の斜面一面にミカン畑が広がったが、価格の暴落で山は荒れ、畑があったことも分からない。仕事がなくなり、人も出ていった。新たな産品として近年、サツマイモに力を入れている。絡み合うつるを手ではがし、耕運機に似た農機具を畑に入れると、丸々としたイモが転がり出た。
 一緒にイモを掘った平郡島おこし推進協議会の仲間と、サツマイモ栽培と加工利用による島おこしを進めている。本土メーカーにつくってもらった芋焼酎「平郡」は5年目の今年、2700本を売り切った。市内企業の仲介で、大手菓子メーカーにサツマイモチップスも試作してもらった。
 ミカン畑の荒れ地を牧場に変え、子牛の繁殖を手掛ける元気な仲間も。サツマイモのつるは、干せば牛の良い餌になり、新しい試みが好循環を生みつつある。
 「観光やイベントで人を集めるより、1次産業がしっかりすれば暮らしていける」。森田さんはそう信じている。
 ただ、そうした努力も、少子高齢化と追いかけっこだ。フェリーは日に2往復。子供連れ一家がIターンして小学校は復活したが、集落で1人の中学生は午前6時の便で本土へ通う。子供たちは島に残ってくれるか。そして原発が、移住者確保に影響しないのか。森田さんの懸念は募る。
 「東電事故で安全に絶対はないと確信した。新規立地の可否もはっきりせず、上関も油断できない。(工事が)動いていない今こそ外堀を埋めて、計画をつぶしたい」と表情を険しくした。(共同=由藤庸二郎)

サツマイモの収穫をする島民たち。隣の島が間近に見える=山口県柳井市の平郡島(撮影・堀誠)

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