【第22回】自分らしく在宅10年 「ALSを踊っている」  介護者“社会との扉”

車椅子で散歩中、千本ゑんま堂で、志賀玲子さん(右)に帽子を取ってもらう甲谷匡賛さん。散歩は雨の日も雪の日も欠かさない。「暑い夏が大変。日差しも強いので日焼けしないようにしなきゃね」と志賀さん=5月23日、京都市上京区(撮影・井田公雄)

 生きる権利や自分の生き方を決める権利は、誰もが持っている。難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患う甲谷匡賛さん(59)は、京都市内の病院に入院していた2007年1月、24時間在宅ケアを勧められた。
 「面白くなりそうだ。実現できるまで生きられますように」
 話せないが、当時は数センチ動いた左手の甲でスイッチをたたき、障害者用のパソコンソフトを使って書き留めた日記には、こう記されている。自分らしく生きようと決めたのだろうか。
 

 ▽横浜で絵画展

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 現在ヘルパーは8人の交代制。甲谷さんは午前7時ごろ起床し、訪問看護や往診を受け、午後10時ごろに寝る。
 ほとんど欠かさないのが車椅子での散歩だ。路地を抜けて、近所の「千本ゑんま堂」や北野天満宮に参拝し、花街「上七軒」などへ。この5月23日には、ゑんま堂の壁画を修復している人を散歩中に見かけ、志賀さんは「すごいね」と甲谷さんに声を掛けた。
 散歩と言いながら、電車を乗り継いで遠出することもある。大阪府吹田市の万博記念公園では「太陽の塔」を見て、大きな観覧車に乗った。
 志賀さんは「今後も甲谷さんが社会とつながる扉を閉ざさないようにしたい」と考えている。
 甲谷さんが寝ている部屋の隣には、友人の舞踏家由良部正美さん(58)の稽古場がある。由良部さんもヘルパーの資格を取り、甲谷さんの介護に当たるが、当番でないときなどにここを使う。
 由良部さんによると、病気を隠すのではなく、知ってもらいたいという甲谷さんの願いから併設されたという。由良部さんが舞踏を披露すると、甲谷さんは見ている。途絶える前の日記には「実はALSを踊っているんだよ」という記載があった。(共同=村川実由紀)
※第21回は欠番です

友人兼ヘルパーとして甲谷さんを支える舞踏家、由良部正美さん。イベントで「黄泉の花」と題する舞踏を演じた=1月31日、京都市中京区(撮影・佐藤優樹)

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