生きる権利や自分の生き方を決める権利は、誰もが持っている。難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患う甲谷匡賛さん(59)は、京都市内の病院に入院していた2007年1月、24時間在宅ケアを勧められた。
「面白くなりそうだ。実現できるまで生きられますように」
話せないが、当時は数センチ動いた左手の甲でスイッチをたたき、障害者用のパソコンソフトを使って書き留めた日記には、こう記されている。自分らしく生きようと決めたのだろうか。
▽横浜で絵画展
現在ヘルパーは8人の交代制。甲谷さんは午前7時ごろ起床し、訪問看護や往診を受け、午後10時ごろに寝る。
ほとんど欠かさないのが車椅子での散歩だ。路地を抜けて、近所の「千本ゑんま堂」や北野天満宮に参拝し、花街「上七軒」などへ。この5月23日には、ゑんま堂の壁画を修復している人を散歩中に見かけ、志賀さんは「すごいね」と甲谷さんに声を掛けた。
散歩と言いながら、電車を乗り継いで遠出することもある。大阪府吹田市の万博記念公園では「太陽の塔」を見て、大きな観覧車に乗った。
志賀さんは「今後も甲谷さんが社会とつながる扉を閉ざさないようにしたい」と考えている。
甲谷さんが寝ている部屋の隣には、友人の舞踏家由良部正美さん(58)の稽古場がある。由良部さんもヘルパーの資格を取り、甲谷さんの介護に当たるが、当番でないときなどにここを使う。
由良部さんによると、病気を隠すのではなく、知ってもらいたいという甲谷さんの願いから併設されたという。由良部さんが舞踏を披露すると、甲谷さんは見ている。途絶える前の日記には「実はALSを踊っているんだよ」という記載があった。(共同=村川実由紀)
※第21回は欠番です