【第25回】学ぶ心、支えていく 多国籍の子らに「居場所」  団地で補習教室10年目

日系ブラジル人の子どものそばで笑う川口祐有子さん。「九番団地では、日本人と外国人の住民の相互理解が進む。学ぶ子どもたちの姿が意識を変えた」と考えている=5月17日、名古屋市港区(撮影・猪狩みづき)

 新学期が始まって間もない4月21日の放課後、名古屋市港区にある「九番団地」の集会所に小学生の元気な声が近づいてきた。川口祐有子さん(41)の時間が始まる。
 「宿題しに来たよ」。ガラス戸を開けて、声の主たちが畳敷きの部屋に次々と上がり込む。宿題は計算ドリルや漢字の書き取りといったおなじみのもの。机に向かうのはブラジル、ペルー、中国、フィリピンなどで生まれ、いまは日本に暮らしている子どもたちだ。

 

 ▽上級生が先生に

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 外国人の学校問題に詳しい愛知淑徳大准教授の教育社会学者、小島祥美さん(43)によれば、家族で来日する外国人が全国的に増え、言葉の壁で勉強に悩む子どもが目立ってきた。
 文部科学省が把握するだけでも、日本語がうまく使えず支援が必要な児童・生徒は2016年5月現在4万3947人に上る。
 言葉の壁から学校になじめず不登校になったり非行に走ったりするケースも多いが、社会のマイノリティーで選挙権も持たない人々の声は政治に届きにくく、事態を改善しようとする行政の動きは鈍いという。
 「こうした子どもたちの『教育を受ける権利』を守る仕組みを、社会が十分に備えているとは言い難い。心ある市民の情熱で何とか支えられているのが現状」と小島さんはみている。
 夕暮れになると、九番団地の集会所には、帰宅する小学生と前後して制服姿の中高校生が姿を見せ始めた。以前ここで学んだOBとOGだ。「あいつ学校に行っていないみたいだよ」「この髪形似合うかな」。何げない日常の出来事や悩みを語り合う時間は続き、川口さんが集会所の明かりを消した頃には、午後9時半を回っていた。
 教室を開いて10年目。大学に進学したり企業に就職したりと、さまざまな活躍の場を見つけたOBたちも出始めた。
 「いつか彼ら自身が教室を支えるようになる日が来る。それまでは私がここを守っていく」。1日の活動を終えた帰り道、川口さんは力を込めてこう話した。(共同=菊池太典)

宿題を終え、集会所から母親と帰る日系ブラジル人の子どもたち。学校からもらった連絡文の内容を簡単な日本語で説明してくれるなど、補習教室は保護者にとっても頼れる存在という=5月17日、名古屋市港区(撮影・猪狩みづき)

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