【鉄鋼商社カノークス 創業120周年】「常にお客様から第一に求められる企業」を実践 知恵と先見性で事業拡大、きめ細かい対応で顧客に貢献

 名古屋市に本社を置く鉄鋼商社・カノークスが、2度目の還暦という大きな節目を迎えた。顧客に寄り添い「常にお客様から第一に求められる企業に」の経営理念を120年間具現してきた。しかし、その間には、業績不振の時期もあり、必ずしも順風満帆で来た航海ではなかった。120年の足跡を振り返る。

 創業した1897年は日本の近代鉄鋼業の黎明期。120年間、本社所在地は変わっておらず、そこで「岐阜屋梅吉商店」を開業したのが創業となる。

 業容拡大のきっかけは、加納商店時代の「帯鉄」。輸入綿花を結束する帯鉄を伸ばし、穴をあけ、日本から輸出される綿織物の荷造り用バンドとして販売し、信頼を獲得。

 その後、昭和に入って自転車用鋼管、ガス管の扱いを開始。これがまたヒットする。「パイプの加納」と称され今に至る会社の基盤を形成する。

 戦争の非常に厳しい経験を経て、トヨタ自動車(当時はトヨタ自動車工業)との取引が始まる。

 朝鮮戦争を前にした1949(昭和24)年。当時のトヨタ自動車工業はドッジ・ライン(財政金融引き締め策)のマイナス影響を大きく受け、自動車の販売不振に苦しんでいた。当時の生産台数は月平均600台(現在は国内で約30万台)。7千人いた従業員の給料も遅配していた。

 数千人規模のリストラも行い、工場はどん底の状態だった。

 その当時、カノークスは顧客の未来を信じて鋼材供給を継続する。これも経営理念「常にお客様から第一に求められる企業に」の具現と言えるだろう。

 翌年、朝鮮戦争が起きて大量のトラックの注文が入る。特需。その翌年には、当時の設備能力の限界である月間1200台に引き上げる生産計画を組むが、人がいない。大量のリストラを実施してしまったためだ。そこで「トヨタ生産方式」などにつながる効率的な生産にとことん知恵を絞るようになる。

 苦難を経て今日に至る「鉄」と「自動車」の緊密な関係を下支えしたカノークスの先見性には、目を見張るものがある。

 その後、1963年に名古屋市港区空見に地区商社系列としては初のコイルセンター(鋼板剪断加工)を設立する。これが加納鋼板工業、現在の空見スチールサービスの流れへとつながっていく。

 同社は多くの優良顧客を抱え、鉄鋼メーカーの一次商社として鋼材を仕入れ、顧客の要望にきめ細かく対応する様々な加工を手がける。まさにワンストップで顧客に届くサービスと言える。

 近年はトヨタ自動車の東北地区での展開に合わせ、迅速に拠点展開。鋼板のほか鋼管の切断加工などもきめ細かく手掛ける。

 現在、社員は190人、資本金23億1千万円で名古屋証券取引所2部に上場(1961年上場)している。メーンの株主はメタルワン(41%)、日新製鋼(16%)、新日鉄住金、三菱東京UFJ銀行で構成する。

木下幹夫社長に聞く/良き伝統守り、働き方改革で時代に即応/「現場・現物知る商社」追求

――創業120年という大きな節目を迎えました。

 「長くお取引をいただいているお客様、仕入れ先様、これまで鉄の商売を続けて下さった多くの諸先輩に、まずは心から感謝したい。創業した1897(明治30)年といえば、日本の近代製鉄のあけぼのの時期。当社はまさに、日本の鉄鋼業とともに歩んできた会社といえる」

――日本鉄鋼業界と同様、幾多の荒波を乗り越えて『2巡目の還暦』を迎えたわけですが。

 「戦争、経済恐慌、震災、オイルショック、プラザ合意など、まさにこの120年は激動の連続だったといえる。その中でもまじめで真剣に取り組み発展を遂げられた諸先輩には敬意を表する。特にオーナー家の加納庄太郎氏は1948(昭23)年から27年間社長を務められ、優れた経営手腕で発展の基礎を築かれた。今に続くトヨタ自動車さんとの関係もこの間に築いていただいた」

――創業時から継続している企業風土とは。

 「『常にお客様から第一に求められる企業に』という経営理念は少しも変わっていない。当社の社名は加納商店、加納鉄鋼、カノークスと変わってきているが、お客様へのこうした思いは変わらないし、多くのお客様の信頼は当社にとって最大の財産」

――歴史に残るエピソードなどは。

 「当社の創業期は、帯鉄の商売がベースとなっていた。その後、自転車用の鋼管、ガス管などを扱い『パイプの加納』として発展した。戦後間もなく、トヨタ自動車工業(現トヨタ自動車)さんとの取引が始まったが、当時は今ほど自動車が普及しておらず、経営も安定していなかった。そうした状況でも鋼材供給を継続し、感謝状をいただいた。それは今も役員応接室の壁に掲げている」

――120年の節目を迎えて、社員にどのようなメッセージを。

 「『諸先輩が築き上げてきた良き伝統と社風は継承しよう』しかし『今は激動の時期。変えていくべきところは変えていこう』という2つのことを常に社員に語りかけている。厳しい事業環境を乗り越えて成長を続けるには、当社自身が『変革』していかなければならない。変革に向けての意識改革活動を、継続的に行っているところ」

――これからの中長期的な事業環境をどう見るか。

 「国内の鋼材流通業はこれから厳しい時代を迎える。少子化、自動車の軽量化やEV化などが進み、従来型のビジネスモデルを踏襲していたのでは変化に対応できない。全社一丸で働き方改革を進め、変化に対応できる企業体質を作り上げたい」

――これからの鉄鋼商社の経営に必要なことは。

 「当社としてやるべきことは、まず、カノークスならではの機能に磨きをかけ、仕入れ先メーカーさんの信頼をしっかり勝ち取ること。ポイントは、当社の強みでもあるきめ細かな対応にある。それと、新たなビジネスが構築できるための職場環境づくり。これが働き方改革だと考えている」

――働き方改革の中身は。

 「第一に、社員の意識改革を進めて働きやすい職場をつくること。4年前から『課を一つに』活動、その後『カノークス・ウーマン』活動、現在は『働き方改革』活動を順次展開しており、ようやく成果も出始めた」

 「第二に、将来を担う人材の確保と育成。このため、まず女性社員の戦力化と職域拡大を実施した。2014年には、29人いた嘱託社員をすべて正社員とした。また『女性活躍促進宣言』を行い、社内に活動の本気度を周知した」

――それが、相次ぐ女性活躍企業として表彰されることに。

 「2016年12月に『あいち女性輝きカンパニー』優良賞、今年1月の『愛知ファミリーフレンドリー企業賞』の相次ぐ受賞につながった。今年度からは、女性の専任職(総合職と一般職の中間職)制度をスタートさせ、現在13人の専任職が在籍している。新人採用にもプラスになっている」

――人事制度などの見直しは。

 「考えている。来年4月から新人事制度をスタートする予定。多様性を尊重した能力発揮の場を提供し、自ら考え主体的にやりぬく人材を育てることがねらい。新たなビジネス構築に向け努力する社員をきちんと評価する制度とする」

――新たなビジネス構築の具体的な施策は。

 「お客様との相互信頼をベースにした新たなビジネスの模索。既存の商売の延長線上で何かできないか。お客様の困りごとを解決するというスタンスから付加価値を高め、商売につなげたい」

 「また、2015年から活動している『3部会』(自動車・鋼管建材・鋼板の各部会活動)。全社で情報を共有できる体制づくりだ。特に若手社員の部会参加によるアイディア出しには期待している。すでにいくつかのアイディアも出てきており、それを今後に生かしたい」

――現場・現物をよく知る商社として、日本のものづくりにどう貢献していくか。

 「お客様と共有したものづくりでの悩みや検討課題などを、しっかりと仕入れ先などにフィードバックしていくこと。顧客密着型の営業をさらに深堀りし、幅広いソリューション提案などを地道に行っていきたい」

――海外戦略などは。

 「現在、当社の海外売上げ比率は2%程度。今後、日本のものづくりはさらに海外展開が加速するだろう。そうした中、筆頭株主であるメタルワンの協力を得ながら、輸出商売に関与できないか、を真剣に検討している。今年度から『海外プロモーションチーム』を組織し、名古屋・東京の輸出担当部署メンバーで定期的に活動している。時代の変化に合わせ、気概を持ってビジネスのコンテンツを整備強化していきたい」

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