ベルギーサッカー協会が主催するカップ戦、ベルギーカップ(オランダ語でBeker van België)。
今週ミッドウィークに行われたベスト16で驚きの事態が起きていたようだ。
舞台になったのはメヘレン対ヘンクの1部リーグ勢による直接対戦。試合は1-1で決着がつかず延長戦に突入したのだが、延長前半終了間際に異変が発生。
主審を務めていたクリストフ・ディリックが怪我をしてしまったのだ。
ディリックの治療のため試合は一時中断になったものの、その後ピッチへと戻り再開に。何とか前半終了のホイッスルを吹いたものの、ディリックの怪我は延長後半に試合を裁くことができないほどであった。
ここまでであれば、サッカーの世界で時折起こることだ。この試合でも延長前半終了後に第4審を務めていたニコラス・ラフォルジュが主審の代役となり、延長後半が始まろうとしていた。
しかし、ここで再びアクシデントが発生する。この短い小休止の間にラインズマンのうちの一人がさらに負傷してしまったのだ。
困った運営者はスタジアムのマイクを使い、「お客様の中で審判経験のある人はいませんか?これは真剣なお願いです」とアナウンス。
スタジアムにいた誰もが冗談だと思っていたのだが、一人の男性が手を挙げ、観客席からピッチへ降りてきた。
その人物こそ、この試合で延長後半からラインズマンを務めたルク・ボスマンス氏だ。
ボスマンス氏は、この日試合観戦に訪れていた男性だ。
しかし審判経験があり、先週末には6部に相当する州リーグのダービーマッチでレフェリーを務めたばかりであった。
こうした緊急事態に直面したボスマンス氏は「尽力を尽くすことが私の義務だと思った」そう。この時ボスマンス氏は飲酒をしていなかったため、「やれる」と感じたとのことだ。
結局試合は一人の観客を副審に迎えるという前代未聞の形で続行となり、そのまま延長後半へ。
ボスマンス氏は自身のジャッジについて「一つも間違いはなかった。判断するシーンは多くなかったからね」とコメント。
試合はPK戦の末ヘンクが勝ち抜けを決めたのだが、「試合の中で最も難しかったのは試合後にヒートアップした両選手を仲裁することだった」と話している。
1部リーグレベルにおいて、120分の中で二人の審判が負傷するのも珍しいが、観客が代役を務め試合が続行されたというのは前代未聞レベルである。
観客席の中に審判経験を持った男性がいたのは不幸中の幸いだが、もし誰も手を挙げなかったらどうなっていたのか気になるところ…。
ちなみに、こちらは試合後に取材を受けるボスマンス氏。
毅然とした態度でインタビューに応じており、その勇気ある決断に心から拍手を送りたい。