発想一つで障害解消 任意団体が江の島でイベント

 障害者にとっての障害とは何かを学ぶ取り組みが、湘南地域で続いている。中心になっているのは、同地域の医療関係者や介護、福祉用具メーカーの経営者らでつくる任意団体「湘南リハケア」。11月26日には藤沢市江の島でイベントを開催し、バリアフリーの生き方や暮らし方を探った。

 会場となった「江の島ヨットハーバー」の一角は、人だかりができていた。

 テーブルには、しゃれたデザインのキッチン用具が所狭しと並べられている。用具を手に取る参加者の真ん中で、車椅子に乗った梶原真智さん(42)はほほ笑んだ。「全部、福祉用具ではなくて普通のキッチン用具なんです」 梶原さんは14年前、交通事故に遭い、左手と下半身にまひが残った。片手で料理ができるキッチン用具を探したところ、ユニバーサルデザインの品に出合った。

 例えば、傾斜のあるまな板。「傾斜の角がストッパーになり、パンをのせて片手でバターやジャムが塗れる。朝の忙しい時間帯は『パン焼いて』とは言えても『バター塗って』とは家族でも遠慮する。けれど、これなら一人でできる」 他にも、片手で湯切りができるざる、立てられるキッチンばさみなど多彩な品々がそろう。梶原さんは「障害があろうがなかろうが、便利なものは誰にとっても便利。発想や使い方を変えるだけで障害がなくなることはたくさんあるのに、当事者も周囲もそのことに気が付いていない」と指摘する。

 作業療法士の鈴木拓真さん(31)も、その一人だった。日常生活で自分らしく生活できるよう作業療法を行う専門職だが、数年前まで生活補助具の種類や用途などは詳しく知らなかったという。「補助具の知識が乏しければ、提案できるリハビリの方法も限られる。結果的にその人の可能性をつぶしてしまう」 鎌倉市内で福祉用具の設計・製造会社を経営する榊原正博さん(45)も、同様の悩みがあった。

 「障害のある方が『便利そうだ』と福祉器具を購入したが、その方に合った使用方法が見いだせず使用できなかったということがあった。生活をサポートするはずが逆に、生活の足を引っ張ることになってしまっては本末転倒だな、と」 苦い経験を繰り返さないためにも、まずは情報や知識を共有しようと、2014年、湘南リハケアを発足した。ことしで4回目となるイベントには、福祉器具メーカーやロボット製造会社など20社がブースを出展し、参加者も150人ほどに上った。

 梶原さんは言う。「事故後、もう自分の力ではできないと思っていたことが、用具一つ、やり方一つで実はできると分かった瞬間、世界が広がった。そのことをもっと多くの人に知ってもらいたい」 湘南リハケアは今後も勉強会やイベントを重ねていくという。

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