障害女性と家族、寄り添った35年 中区の映画館で記録上映

 知的障害がある横浜在住の女性とその家族の日常を追ったドキュメンタリー映画が2日から、横浜市中区のシネマ・ジャック&ベティで上映される。伊勢真一監督(68)は、めいの西村奈緒さん(44)が8歳のころから寄り添ってきた。昨年7月には相模原市緑区の障害者施設で殺傷事件が起き、不寛容になりつつある社会に向けて「障害者が地域で生きてゆくことの素晴らしさを伝えたい」と願っている。

 伊勢監督の最新作「やさしくなあに〜奈緒ちゃんと家族の35年〜」は、重いてんかんと知的障害を併せ持つ奈緒さんが家族とともに暮らす日々での喜怒哀楽を丁寧に記録し、1時間50分にまとめた。タイトルは、家庭内で言い争う両親に「ケンカしちゃいけないよ。『やさしくなあに』って言わなくちゃ」との奈緒さんの言葉から取った。

 相模原の障害者施設で殺傷事件が起きたのは、千時間を超える映像を編集しようと手を付け始めた時だった。「障害者は生きていてもしょうがない」と植松聖被告(27)が供述したことに衝撃を受けた伊勢監督は、障害者への無関心や差別意識が社会のどこかに芽吹いているように感じたという。

 「奈緒ちゃんだけでなく、地域にはたくさんの奈緒ちゃん(のような障害者)が生きている。地域で成長し、生きてゆく『いのち』の尊さを映画から理解を深めてほしい」と話す。

 「奈緒ちゃんシリーズ」はこれで4作目。1995年には成人式までの12年間を記録した「奈緒ちゃん」。2002年には、奈緒さんの母親が横浜市泉区に設立した地域作業所を追った「ぴぐれっと」。06年にはグループホームで暮らし始めるまでを描いた「ありがとう」を発表している。

 ジャック&ベティでは8日まで午前11時半から、9〜15日は午後1時25分から上映。9〜15日は午前11時半から伊勢監督作品を特集上映する。2、3、9日には監督らの舞台あいさつもある。スケジュールなどの問い合わせは同館電話045(243)9800。

 「やさしくなあに」は来年1月12日午前11時と午後2時の2回、同市泉区の泉公会堂で自主上映される。

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