【収益回復、鋼管事業が黒字化・住友商事の金属事業戦略】〈金属事業部門長・堀江誠専務〉「国内外のCC増強に100億円」 アジアのGI事業、バングラデシュにも進出

――まずは根幹となる業績から。グローバルベースの金属事業の純利益は2015年度が11億円、16年度が18億円と低迷。今年度は鋼管事業が黒字化して上期実績が180億円、通期見通しが300億円に。

 「上期は、事業売却益など一過性の利益があった。それを除いた実力ベースの純利益は130億円程度。通期は、それを2倍にして上期の一過性利益も加味して300億円を見通しとしている。期初は250億円の見通しとしていたが、価格上昇や中国などでの鋼材需要増加を受け、50億円の上振れとなっている」

住友商事金属事業部門長・堀江専務

――鋼管事業は上期39億円、通期75億円と3年ぶりの黒字化です。経営資源の最大投資先である北米で、既存の油井管問屋3社と500億円強を投じて買収したエジェン社の業況はどうですか?

 「北米のリグカウントがボトムの404基から900基程度に回復しており、鋼管の価格は年初に比べて250ドル上昇している。既存の油井管問屋群は黒字だ。買収した米鋼管問屋のエジェン社は減損や在庫評価損といった一過性も含めて2期連続赤字と苦戦したが、今期は赤字額が大幅に縮小する見通しだ。エジェンの北米事業は黒字化しており、あとは非米地域の改善が課題となっている」

 「鋼管の周辺分野で掘削機材を扱うHOWCO社も業績改善しているが、まだ黒字には至っていない。またバローレック社との合弁鋼管メーカーであるバローレックスターも黒字に届いておらず厳しい。当社の鋼管事業トータルでは、前年度比で200億円改善して黒字化する見込みだが、まだ回復の途上だ」

――鋼管事業以外で、グループ会社の業績はどうですか。

 「国内の事業会社は全社が黒字となっている。通期で見ると、収益貢献額が大きいのはサミットスチール、住商メタレックス、住商特殊鋼などだ」

――国内外でコイルセンター(CC)事業が堅調です。

 「国内外で31社のCCがあるが、インドとメキシコを除いて黒字となっている。メキシコも足元では黒字化してきている」

 「CC事業は選択と集中を進めている。中国などではもともと電機分野向けの日系ユーザー対応で進出したCCが多かったが、ここ数年での需要構造の変化に合わせて自動車向け比重を上げて対応できる形に変えた。中国では日系自動車のシェアが上がっており、取扱数量が増えて業績も伸びている」

 「国内ではウエアハウス工業の経営権をメタルワンに譲渡し、サミットスチールでは北海道シャーリングを傘下にするとともに西条工場を事業譲渡し、泉北工場は閉鎖を決定した。一方で、国内外のCC設備増強に対し、昨年度から今年度の2年間で約100億円を投じている。国内ではサミットスチールやマツダスチールでブランクラインのレベラー増強やTWB(テーラードブランク)設備増強を行い、超ハイテンの加工分野などを強化している。海外では中国・杭州、シンガポール、インドネシアのCC2社のうち、1社を清算する一方で、ローカルパートナーから株式を買い上げている地域もある。選択と集中で経営資源を投じている」

――今年度の投資額はもともと800億円の計画でした。

 「現時点での見通しでは600億円程度になりそうだ。コイルセンター関連での約100億円に加え、鋼管や鉄道部材関連事業などに投資。鋼管では新技術を取り込むための投資や既存ソフトウエアの更新などIT投資も含め、サプライチェーンのバリューアップを図る」

――アジアで展開するGI(溶融亜鉛めっき)事業でも投資が目立ちます。

 「新興国では今後、薄板建材向けの亜鉛めっき鋼板需要が増えていく。ベトナム、マレーシア、カンボジア、パキスタンの4国でGI事業を展開しており、また、最近では、バングラデシュの有力コングロマリットに属する企業への出資を決定した。これらの新興国では、将来は設備増強の話も出てくるだろう。ベトナムでは生産能力の拡大を進めている最中だが、需要旺盛で、既にさらなる能力増強がテーマになっている」

「車、鉄道、エネルギー、生活」が4本柱/「ユニークなポートフォリオの優位性発揮」

――最近のトピックスについて。まずは来年4月1日付での住友商事グローバルメタルズ(略称・SCGM)への事業移管について。

 「連結売上高で約1兆円を本体から移管する。予定通り進める。現在、グローバルメタルズの新組織概要などにつき詰めの検討を行っているが、年内には固めるつもりだ。現在でも業務委託の形で住友商事グローバルメタルズが取引に携わっており、業態を変えることにはなるが人員配置などはあまり変わらず、金属事業部門の中核的位置付けは変わらない。鉄道向けやアルミの地金契約などを除く大半の取引はグローバルメタルズが一次商として契約主体となる。エンジニアを含めた専門性の高い人材を採用するなど人材多様化をスピード感を持って進められる。人員は約700人で住友商事からの出向者が約半数。権限移譲を行う」

――事業会社の株式移管は。

 「考え方としては国内外の事業会社すべてをグローバルメタルズ傘下に移管するつもりだが、来年4月の時点では国内7社に限る。海外は税務面なども含めて慎重に考えていく」

――国内鋼管事業はメタルワンと事業統合を検討中です。子会社2社(住商鋼管とメタルワン鋼管)の売上げ規模は計1100億円に。

 「来年度の上半期の発足を目標に詳細検討を進めている。住友商事の本体からも一部事業が合流することになるだろう。当社の国内事業の核との位置付けであり、事業統合の相乗効果を期待している」

――現行中期計画は今年度で終了。中長期を見据えた金属事業のビジョンや展望を。

 「自動車向け、鉄道向け、エネルギー分野の従来からの重点3分野に加え、生活関連を4本目の柱としたい。生活関連は、海外新興国の都市化の進展や生活水準の向上に伴って増える需要を捉える。国内でもインフラの更新需要が出てくる。先ほど申し上げた東南アジアのGI事業や、国内の伊藤忠丸紅住商テクノスチールなどがこれに当てはまる」

 「当社は新日鉄住金製の高品質鋼管、レールや車輪・車軸などの鉄道関連部材の扱いが多く、ユニークな事業ポートフォリオを構築しているのが強みだ。その優位性を発揮し、業界のリーディングポジションをキープできるように事業基盤を強化していく。需要家サイドの課題、困っていることを解決する観点からビジネスを展開することが、結果として日本鉄鋼メーカーの材料を多く売ることにつながると考えている。総合商社ならではの機能や存在感を発揮していきたい」

――強みを持つ鋼管事業の将来展望は?

 「鋼管サプライチェーンのマネジメントサービスを高付加価値化し、モデルの高度化を目指す。当社が在庫販売する鋼管や油井機材の在庫管理を『見える化』してきめ細かくユーザー側に情報提供するほか、油田開発コストを下げて井戸を掘れるような新技術なども導入するべく調査を行っている。井戸1本に対して、当社が提供できる機能やサービスを増やしていく」

 「当社は世界12カ国で鋼管のSCMを展開しているが、その中で幾つかの顧客とは、彼らの資機材購買の仕組みについてデジタル化を加速することで高度化する取り組みを既に始めた。ロジスティックス(鋼管や周辺機器類の輸送)に付加価値を付けることがカギになる。鋼管本部の人員は赤字になってから大幅に減らしたが、今は将来を見据えて増員を図っている」

――国内事業の将来像について。

 「住商グローバルメタルズに事業の大半を移管しながら、サミットスチールやマツダスチールなどが手掛けるコイルセンター事業、メタルワンとの合弁鋼管会社、建材の伊藤忠丸紅住商テクノスチール、ステンレス丸棒、構造用鋼を扱う住商特殊鋼、非鉄製品のみならず現在は金属製品も扱う住商メタレックスの五つを重点分野として位置付ける。テクノスチールへの出資は3分の1にとどまっているが、当社の建設部門との連携を含めて住友商事の総合力が発揮できる部分も少なくない。先々、国内需要は頭打ちになるが、一定の需要はあり続ける。引き続き経営資源を投じていく」

(一柳 朋紀)

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