先日行われた2018年ワールドカップの組み合わせ抽選会。
日本はグループHに入りポーランド、セネガル、コロンビアと同組になった。
そんな日本の初戦である日本対コロンビア戦は当初午前0時キックオフ予定であったが、一夜明けた2日(土)には午後9時に変更されていた。
なぜ、ワールドカップという大舞台でこのような変更が起こるのだろうか?
今回は2016年4月15日に配信した記事の一部を紹介する形で、「電通タイム」と呼ばれるものの正体に迫る。
五輪やワールドカップといった国際大会では、以前に指定されていたキックオフ時間が突如変更になることがある。
そもそも、こうした主要国際大会では抽選前からキックオフ時間や試合会場が予め決められている。
これはおそらく先に試合会場をブッキングしておく必要があるためで、抽選会ではすでに決まっている試合条件(会場や時間)に対戦するチームを当てはめていくという形式が取られている。
つまり、すでに決まっている試合日程が後で動かされるというのは、普通はありえないことなのだ。
にもかかわらず、五輪やワールドカップでは時折そうした不思議なことが起こる。その背景にいるのが、日本の広告代理店「電通」であると言われている。
そもそも電通って何?
電通とは、日本最大の広告代理店である。
広告代理店といえば、ざっくり言うと企業の広告コミュニケーションを創造する会社である。メディアからは媒体を「買い」、企業に対してはその媒体を利用した広告ソリューションを「売る」のが基本的なビジネス構造だが、近年では商品開発やコンテンツビジネスなど、その領域は多岐にわたる。
そうした中で、電通は日本のサッカーの発展にも貢献してきた。詳細は省くが、あのFIFAがマーケティングパートナーに指名しており、2007年から2014年にかけてのFIFA主催大会におけるアジアでのマーケティング権は電通が所有していた。
つまり、2010年や2014年ワールドカップにおけるアジア地域の放映権等の販売は、全て電通を通じて行われていたことになる。2014年大会では『スカパー!』がワールドカップの放映権を獲得できず少し話題になったが、要は電通との契約がまとまらなかったということだ。
サッカーコンテンツを用いたマーケティングに関して、電通はあのFIFAからも一目置かれているのだ。電通がいなければ、日本でワールドカップが行われることもなかっただろう。
電通はもちろん五輪でもマーケティング権を握っている。リオ五輪に関しては日本を含むアジア17地域における放映権をすでに獲得。電通という企業は、広告代理店を超えた超巨大組織なのだ。
ちなみに、高校サッカーの運営にも長く関与しており、クラブワールドカップの「7色マフラー」を開発し流行らせたのも電通である。2014年からはJリーグともマーケティングパートナー契約を結ぶことに成功している。
そんな電通が絡むワールドカップやオリンピックでは、これまでなぜか突如キックオフ時間が変更になるといった事態が起きていた。
たとえば2012年のロンドン五輪のことである。日本はグループステージでスペイン、モロッコ、ホンジュラスと対戦したのだが、このうち初めの2試合でキックオフ時間が変更になっている。
その時のリリースが日本サッカー協会の公式サイトに今も残っている
ロンドン五輪でもキックオフ時間が変更に
第30回オリンピック競技会(2012/ロンドン)サッカー競技(男子)のおいて、安全上および輸送上の理由により、一部の試合のキックオフ時間が変更されました。
U-23日本代表の出場する試合については、グループステージの第1戦、第2戦が変更されましたのでお知らせいたします。
第30回オリンピック競技大会(2012/ロンドン) サッカー競技(男子)
U-23日本代表 マッチスケジュール
7月26日(木) 14:45
スペイン 対 日本 @Hampden Park, Glasgow
7月29日(日) 17:00
日本 対 モロッコ @St James’ Park, Newcastle
8月1日(水) 17:00
日本 対 ホンジュラス @City of Coventry Stadium, Coventry
※太字が変更箇所です。
当初、スペイン戦は12時(日本時間20時)、モロッコ戦は19時45分(日本時間翌3時45分)のキックオフであった。
しかし、大会の開幕が迫った6月にJFAはこの2試合のキックオフ時間が14時45分(日本時間22時45分)、17時(日本時間翌1時)に変更になったと発表している。
これがいわゆる「電通タイム」。
マーケティング面を考慮して、「電通がキックオフ時間を変更したのではないか」とまことしやかに噂されているわけだ。その理由が「安全上および輸送上の理由」としているあたりにも、大人の事情のようなものを感じる。
こうした例は他にも見られ、2014年ワールドカップではグループステージ第1節のコートジボワール戦のキックオフ時間が7時から10時に変更されていた。これは、この日が日曜日であったことからの配慮であったと思われる(他にも6試合のキックオフ時間が変更されているため、電通以外の有力な代理店の影響力があったと想定される)。
本来、こうした変更は私たちファンにとってもありがたいものである。なぜなら、基本的にはより多くの人が見られる時間帯に試合時間が移されるからだ。
放送局側からしても、日曜日の早い時間よりお昼前に中継した方が視聴率は計算できる。電通が担う役目はそのサッカーコンテンツの価値を最大化させ、"WIN-WIN"の関係を築くことだ。
しかし、そうした配慮が逆効果になった例もある。
キックオフ時間の変更がもたらした弊害
2006年のワールドカップでもグループステージ2試合の日程が変更になったのだが、第2節のクロアチア戦ではキックオフ時間が現地時間18時(日本時間翌1時)から14時(日本時間22時)に移されたのだ。
キックオフ時間が夕方から真昼に変更になることで懸念されるのは、選手のコンディションである。当時のドイツは夏にあたり、日中のプレーはできれば避けたいもの。しかし、マーケティング的な観点からキックオフ時間が昼に変わってしまい、日本はこの試合を0-0で終えたのだ。
私たちとしては、夜中の1時より当然22時キックオフの方がありがたかったりする。日本代表戦ほどのキラーコンテンツであれば、それは放送局も然りだ。しかし、そのシナジーを生むために選手のパフォーマンス面が蔑ろにされてしまったわけだ。
試合後、ジーコ監督は記者会見でこのキックオフ時間の変更について苦言を呈したと言われている。もちろん日本がクロアチアに競り勝てなかった理由はそれだけではないが、天候面が影響した部分もあるのだろう。
さて今回のリオ五輪では、今のところ日本戦のキックオフ時間は以下のようになっている。
8月5日(金)10:00-
ナイジェリア - 日本(マナウス)
8月8日(月)10:00-
日本 - コロンビア(マナウス)
8月11日(木)07:00-
日本 - スウェーデン(サルバドール)
スウェーデン戦が行われる8月11日は祝日である(山の日)。
いずれも一般人にとっては見づらい時間であり、日本代表戦を「コンテンツ」として見た時にその価値はやや低いともいえる。そのため、電通の働きかけによってキックオフ時間が変更になることも十分ありうる話なのだ。
しかし、今大会は日本と12-13時間の時差があるブラジルで行われることから、日本の人たちが見やすいゴールデンタイムへの変更は現実的ではなさそうだ。