『ビジランテ』 兄弟が繰り広げる愛憎劇を乾いたタッチで

(C)2017「ビジランテ」製作委員会

 韓国映画をリメイクした『22年目の告白-私が殺人犯です-』が今年大ヒットして、これまでの映画作家としての評価に加えて、ヒットメーカーとしての地位も獲得した入江悠。彼が、出世作『SR サイタマノラッパー』と同じ地元・埼玉県深谷市に戻って撮った新作だ。脚本も彼のオリジナル。

 幼い頃に暴君的な父親を殺そうとした3兄弟が父親の死をきっかけに30年ぶりに再会し、遺産の土地を巡って繰り広げる愛憎劇だ。ただし、ドロドロの展開ではなく、タッチは乾いている。一見、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』を思わせるけれど(実際に影響も受けているであろうが)、ここでは“父殺し”を果たせなかった3兄弟にとって父親は、死してなお彼らの心身に重しのようにのしかかる存在として描かれる。

 それを見る者に植え付けるために入江監督が活用したのが、深谷の殺伐とした風景と地方都市性。得意の空間表現と真冬の夜の撮影を多用することによって構築した世界観が見事だ。それはソフィスティケートとは真逆の男臭く土着的な世界観で、構造的にはより近いコッポラの『ゴッドファーザー』以上に、イーストウッドが3人の幼なじみの男の25年ぶりの再会を描いた『ミスティック・リバー』を思い出させる! 本作は、入江悠が巨匠イーストウッドに近づいた瞬間、彼の新たな到達点と言えるだろう。★★★★★(外山真也)

監督・脚本:入江悠

出演:大森南朋、鈴木浩介、桐谷健太

12月9日(土)から全国順次公開

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