永世7冠

 2年前のインタビューから。〈棋士は私にとって職業ですが、…賞金がなかったら将棋の内容が変わるかというと、たぶん同じだと思います〉▲間違いなく、並外れた情熱の持ち主のはずなのに「ギラギラ」という形容がまるで似合わない。あり得ないことだが、触ってみたら「さらさら」と音がしそうな気がする▲記録ずくめの棋歴に「史上初」がまた一つ。自身7期目の竜王位獲得で「永世7冠」を成し遂げた将棋の羽生善治さん。新たな偉業達成の舞台になったのは「指す宿」と書く鹿児島の温泉地。地名が将棋にぴったり▲15歳で棋士になって32年。〈1年間や2年間だったら、無理やりにでも高いテンションを維持し、好成績を残すことも可能だと思うんですが、長いスパンになると、日常的に普通にできる範囲で続けられることでなければ無理が出てくると思うんです〉▲もちろん「日常的」や「普通」の物差しの目盛りは私たちとは懸け離れているだろうが、彼は選ぶ言葉もいつも平易で、やっぱり「さらさら」している▲竜王戦の7番勝負が始まる前、最近の苦境に触れながら、もうひと花は咲くか-とこの欄に書いた。心配いりませんよ、と返事をもらった気分だ。通算のタイトル獲得数はこれで99期。すぐ先に、次の「前人未到」が待っている。(智)

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