「Jウォッチャーが選ぶ、2017シーズンのJ1ベストイレブン vol.1」

先日、2017シーズンのJリーグの総決算とも言うべき『Jリーグアウォーズ』が開催され、ベストイレブンやMVPなどの表彰が行われた。

だが、その選考結果については、正直言って、賛否両論だったかもしれない。SNS界隈などを見て回ると、その反応がよくわかる。

各々に愛するクラブがあり、選考基準もまちまちとなれば、当然の話ではあるのだが…。

ということで閑話休題、『Qoly』もサッカー専門メディアの一つとして、独自にJ1のベストイレブンを届けることにした。

シーズン序盤戦におけるベストイレブンを寄稿するなど、今季もJ1を追いかけたカレン氏を選考者に迎えて、インタビュー形式でお送りしたい。

編集部(以下、――):カレンさん、今回もよろしくお願いします。既に「リーグ開幕から二ヶ月後」、「シーズン前半戦」と二回にわたってJ1ベストイレブン企画を行って頂きましたが、今回は2017シーズン総括版です。

カレン(以下、省略):当時の記事を振り返ってみると、序盤だけ良かった選手、序盤からずっと良かった選手と色濃く分かれましたね。

しかし、『Jウォッチャー』と書かれると、ハードルを上げられている気が(笑)

――大丈夫でしょう!前回、皆さんからの反響も良かったですし、何より信頼しています!

恐縮です…(汗)

――ということで、早速選考に移ります。あ、今回は各々のポジションでベスト5まで決めるようにお願いします。

なるほど、そういう形式ですか…。

これで難しくなったのか簡単になったのか、正直謎ですが…頑張ります!

――では、GKからいきましょう。

個人的には、このポジションは「ベスト」を決めるのが最も難しいポジションだと思います。

度重なるビッグセーブもあり、インパクト面を考えると中村航輔(柏レイソル)の真っ先に浮かびます。それは私だけではないでしょう。

ですが、同様にカミンスキー(ジュビロ磐田)やチョン・ソンリョン(川崎フロンターレ)も良かったですね。

前者は難しい局面でも簡単に対応してしまうほどの技術力が際立っていました。その能力だけを評価すれば、Jリーグにおいてもトップだと思います。

今季のジュビロは本当に守備の統制が取れていたので、良くも悪くも、カミンスキーのスーパーセーブは減っていったのですが…。

ソンリョンに関しては、世間を賑わせる衝撃的なミスもありましたが、一方で絶体絶命のピンチを救うプレーも多くありました。

川崎は、押し込まれた場合にDFラインが下がりっぱなしになることがあり、なおかつその中でボールに対して厳しくいくので、GKからすると判断が難しいシーンも多々あったと思います。

「自分が行くのか、味方に任せるのか」や「飛び出すのか、引くのか」という判断が迫られる状況が連続発生していましたからね。

ですが、その中で彼は的確にシュートブロックのポジションを取り、水際で防いでいました。その雰囲気から豪胆な印象もありますが、実はかなり繊細にプレーしていたと言えるかもしれません。

繊細なプレーで言えば、鹿島アントラーズの曽ヶ端準も忘れてはいけません。

彼は人を使った守備が巧みで、ポジション取りもミスが少ないので、派手なセービングはあまり見られないですが、今季加入したクォン・スンテとの違いも見せれてくれました。

スンテのプレーを何度か見た後に「これは最終的には曽ヶ端がポジションを再び奪い取るな…」と踏んでいたのですが、それが的中して良かったです。もちろん、このポジション争いについてはスンテの怪我の影響もありましたけど。

後は、チームは期待通りにはいきませんでしたが、東口順昭(ガンバ大阪)は自身のパフォーマンスを維持していましたね。

彼がいなければ、この順位(10位)では落ち着かなかったでしょう。五分五分のボールに対して果敢に飛び込む姿勢などは、サポーターも震えたのではないでしょうか。

また、これまでなかなか脚光を浴びることが少ないですが、飯倉大樹(横浜F・マリノス)は攻撃面での貢献度も高かったですし、日本代表に復帰した権田修一(サガン鳥栖)、キム・スンギュ(ヴィッセル神戸)も…

――このままいくと、話が全選手に及びそうなのでここでストップです(笑)ページの都合もあるので、そろそろベスト5をお願いします。

「GKへの愛」が溢れてしまいました…すみません。

ということで、以下にしました。

1位:中村航輔(柏レイソル)
2位:カミンスキー(ジュビロ磐田)
3位:チョン・ソンリョン(川崎フロンターレ)
4位:東口順昭(ガンバ大阪)
5位:飯倉大樹(横浜F・マリノス)

――続いてCBです。こちらについてはいかがでしょう?

順当にいくと、鹿島アントラーズのCBコンビ、昌子源と植田直通ですかね。

特に前者については全試合に出場し、小笠原満男、遠藤康が欠場時にはキャプテンとしてもチームを引っ張っていました。リーダーとしての自覚が芽生えたシーズンになったと思います。ただ…

――ただ?

「パフォーマンスが悪かった」というわけではないのですが、高い能力を見せてくれる一方で、少々残念なシーンも多かったです。

今季は、昨季に比べて周りを活かしたスマートな守備が伸びた印象ですが、悪く言えば、「大人しくなった」という感じがしました。

対人戦やシュートブロックの場面において、自分が行き切るべきポイントで反応が遅れてしまいピンチに陥るケース。

他にもセーフティファーストでも十分な局面で、欲を出してボールを奪い切れずというシーンなどは散見しました。守備から攻撃への切り替え時なども同様でしたね。

今年A代表で試合に出場するまでは、そんな感じもなかったんですが、彼の中で何か意識が変わったのかもしれません。こればかりは本人に聞いてみないと何ともですが…。

いずれにせよ、これらの現象はその向上心の高さ故でしょう。

「センターバックとして、もう一つ上のレベルのプレーを目指しているからこそ」という意識が強いからこその結果ですから。

ただ、来季(Jリーグでプレーするのであれば)は、安定感を追い求めて欲しいです。個人的には、さらに上のステージに行くのはその後で良いんじゃないかなと考えています。

海外に出れば、当然対峙する選手のレベルも上がり、一つのミスが命取りになるわけですし、今のプレースタイルのままでは少々不安な面があります。期待しているだけにあえて厳しいことを言いますが…。

――なるほど。彼の海外挑戦を望んできたカレンさんならではの考えですね。他の選手はどうでしょう?

谷口彰悟(川崎フロンターレ)、マテイ・ヨニッチ(セレッソ大阪)、中澤佑二(横浜F・マリノス)、大井健太郎(ジュビロ磐田)は、必ず皆が挙げるでしょう。

また、これは個人的な好みとも言えますが、奈良竜樹(川崎フロンターレ)、高橋祥平(ジュビロ磐田)は大きく伸びましたよね。

時折、熱いプレーがラフプレーに変わってしまう点が共に気になりますが、そういうセンターバックは日本に少ないタイプなので、そこは今後も活かして欲しいです。

後は、中谷進之介、中山雄太の柏レイソルの若きセンターバックも非常に魅力的で、今季もパフォーマンスも良かったですが、前述の選手たちに比べるとやや劣る印象です。

遠藤航(浦和レッズ)、平岡康裕(ベガルタ仙台)などは、チームの状態が良くない中でも要所を締める守備が光っていました。

――序盤戦にベストイレブンを選考した際には、三浦弦太、ファビオ(共にガンバ大阪)の名前も挙げていましたが?

はい、序盤戦は本当に良かったです。チームの調子が決して良くない中でも後ろを支えていましたからね。ですが、シーズン途中からスケールダウンしてしまったなと。

三浦は全試合フル出場こそしましたが、思い切ったロングフィードやアグレッシブな守備などの持ち味が徐々に消えていきましたし、失点に直結するようなミスがチームの下降と共に増えていきました。

個人的にも期待している選手なので、来季は挽回と言わずに覚醒して欲しいです。ポテンシャルを考えれば、W杯終了後にA代表の常連になっていても不思議ではないので。

ファビオはあの身体能力の高さが本当に魅力的で、シーズン前半戦は本当にサプライズ的な活躍だったのですが、怪我で後半戦を棒に振ってしまったのがただ残念です。

――以上を踏まえると?

まだ名前を挙げていない選手もいるのですが…ここは谷口とヨニッチにしたいと思います。

谷口は元々はボランチの選手ですが、本当にトータルバランスの高さを見せていました。

前輪駆動型のチームがわずか32失点でシーズンを終えられたのは、彼のディフェンス統率力や戦術理解力、カバーリングセンスがあってこそでしょう。

ボールを奪ってからすぐに攻撃に転じる球出しの上手さや今季7得点を奪ったヘディングも強さも光っていました。スピードやフィジカルコンタクトの面で言えば、他に優れた選手もいますが、総合点では今季は「No.1」でした。

彼と同様にシーズンを通して存在感を見せてくれたのがヨニッチです。

「2年連続のKリーグベストイレブン」という看板を背負ってのJ初挑戦でしたが、下馬評以上のパフォーマンスだったのではないでしょうか。187cm・83kgと恵まれた体格にスピードとクレバーさも兼ね備えているんですから、相手チームは本当に手を焼いたと思います。

また、彼のパートナーはシーズン途中に、山下達也から木本恭生へと代わりましたが、彼らが共に高評価なプレーを見せられた理由の一つとしても、彼の存在を挙げられると思います。

さらに、今季のセレッソ大阪は、セットプレーが一つのストロングポイントでしたが、そこでも彼が重役を担っていたことも触れておかなくてはなりません。

「ヨニッチにボールさえ合えばほぼゴール」という印象すらあり、実際に決定率も40%を超えていたようです。しかし、改めて振り返ってみると、ヨニッチ、木本(山下)、杉本、ソウザ、山村がターゲットとして君臨するセットプレーは本当に恐ろしいですね…。

ということで、私が考えるベスト5はこんな感じです。

1位:谷口彰悟(川崎フロンターレ)
2位:マテイ・ヨニッチ(セレッソ大阪)
3位:昌子源(鹿島アントラーズ)
4位:中澤佑二(横浜F・マリノス)
5位:大井健太郎(ジュビロ磐田)

――さて、次は右SBに移ります。こちらのポジションの印象はいかがでしょうか。

SBはチームによって求められる役割が微妙に違いますし、何を評価するかによって選考にも影響が出やすいので、案外難しいですね。

決定的な仕事をどれだけしたか、ミスが少なく安定した仕事をどれだけしたか、それが攻撃なのか、守備なのか…。賛否両論となるでしょう。

――カレンさんの基準でお願いします。

特に目に止まったのはエウシーニョ(川崎フロンターレ)です。

チームのスタイル自体もオリジナリティに溢れていますが、エウシーニョのプレーは他のサイドバックとは一線を画していました。とりわけ攻撃面ですね。

かつてドルトムントを率いていたトゥヘルや、現在シティの監督を務めるペップなどは、サイドバックに「ダイアゴナルの選択」を求めることが多いですが、それに応え得るサイドバックはJリーグにはまだ少ないです。しかし、その中で実践できていたのがエウシーニョでした。

――「ダイアゴナルの選択」と言うと?

主に二つの局面があります。

ボールを持っている時には「サイドから斜め前に打つくさび」と「ドリブルでのカットイン」。

ボールを持っていないところでは、逆サイドでチャンスを作っている時に「ペナルティエリアに斜めに侵入してファーサイドでボールをもらう動き」です。

海外に目を向けると、マンチェスター・シティのカイル・ウォーカーなどが得意としているプレーですね。

これらの選択を取れるサイドバックがいれば、チームは厚みのある攻撃を実現しやすく、現代サッカーではそれを戦術の一つに取り入れるチームも多くなってきていますが、川崎があの攻撃スタイルを敷けたのはエウシーニョがいてこそだと思います。

守備面ではポジショニングの面などで雑さはありますが、それを補って余りある貢献を見せてくれました。

彼のような選手がいると、相手チームの左サイドの攻撃力も削ぎますし、あらゆる面で好影響を与えていたと思います。

――他に気になった選手はいましたか?

鹿島アントラーズの西大伍も良かったですね。

元々攻撃的な選手ということもあり、サイドバックの中では視野が広く、攻撃時におけるポジショニングやパスワークでの組み立てはチームを助けていました。また、強靭なバネもあり、フィジカルコンタクトも強いので、対人戦では攻守両面で長所を発揮していました。

後は、急成長を見せた小池龍太(柏レイソル)。

決定機への関与はそれほどありませんでしたが、横浜F・マリノス戦で、当時絶好調だった齋藤学を「シュートゼロ」に追い込んだ試合が代表的ですが、彼のサイドを破られた試合はほとんどありませんでした。スピード、運動量、マーキング能力は、FC東京時代の長友佑都を想起させます。

それとセレッソ大阪の松田陸も印象的でした。

サポーターでもその評価は分かれるようで、重要なところでマークを外したり、不用意なファールもたしかにありましたが、「嫌らしさ」で言えば、Jリーグ最高クラスでしょう。相手チームからすると、存在するだけで嫌な選手だと思います。

そして、残念なところとしては、高橋峻希(ヴィッセル神戸)です。

非常に安定していて「今季は大きな成長が期待できそうだな」と見ていたんですが、途中で故障離脱してしまったのが悔やまれます。

ちなみに、この部門は右WBでプレーしていた選手も該当するんですよね?

――はい、該当します。

となれば、ジュビロ磐田の櫻内渚も面白かったです。

スタミナが特長的なので「質より量の選手」と思われがちですが、クロスの精度も良く、攻撃面でもより存在感を見せられる選手になったと思います。

また、シーズン途中からの加入でしたが、ベガルタ仙台の古林将太も好印象でした。サイドバックでは課題が見えやすいですが、ウィングバックの起用でしたので、彼のクロスやドリブルが本当に活きていましたね。

後はチームは降格していましたが、横浜F・マリノスからヴァンフォーレ甲府に期限付移籍で加入した高野遼も面白かったですね。

以上をまとめて、こんな感じの順位にしたいと思います。

1位:エウシーニョ(川崎フロンターレ)
2位:西大伍(鹿島アントラーズ)
3位:櫻内渚(ジュビロ磐田)
4位:小池龍太(柏レイソル)
5位:松田陸(セレッソ大阪)

――では、その逆サイドに移りまして、LSB/LWBについてお願いします。

先程と似た話でいくと、日本代表にも選出されるようになった車屋紳太郎(川崎フロンターレ)の名前は真っ先に挙がってきますね。

非常にボールの持ち方が巧みで、崩しの局面で働いてくれた分、周囲の選手はフィニッシャーとして専念できるシーンが多かったと思います。

ただ、多彩な能力を持っているので、自ら仕掛けてのシュートや球足の速いアーリークロスなど、プレーの幅は広げて欲しいですね。彼はそれが実現できると思いますし、そこをクリアすれば、より怖い選手になると思います。

また、「決定機を演出したサイドバック」というポイントでは、セレッソ大阪の丸橋祐介もマストです。

アシスト数も二桁に乗せましたし、彼の左足は間違いなく「チームのストロングポイント」でした。彼の存在がなくして「セットプレーが強いセレッソ」はあり得ませんでしたし、勝点をこぼしていた試合もあったはずです。

そして、彼と似たように存在感を見せていたのが太田宏介(FC東京)でした。

チームは大きく期待を裏切ってしまいましたが、その中でも持ち味はしっかりと出していたのは見事だと思いますし、評価を受けてしかるべきです。

他は少し地味な印象があるかもしれませんが、山本脩斗も良かったですね。

元々攻撃色の強い選手だったのに、気付いていれば、Jリーグ屈指のバランス型サイドバックという…。本当にわからないものです。ミスというミスがほとんどなく、平均点はシーズン通して高かったのではないでしょうか。

――他にはどうでしょうか?

「可能性を感じさせてくれた」という点を踏まえると、山中亮輔(横浜F・マリノス)と松原后(清水エスパルス)は抑えなくてはならない選手でしょう。

前者は終始アップダウンを続けられるスプリント能力と強烈な左足。後者は身体的なパワーと前への積極性が印象的ですが、まだまだ伸びしろが十分過ぎるほどあるので、来季は全然違う選手になってるかもしれませんね。

後は「なんで代表に声が掛からないのかなぁ」と思いながら見ているのが、吉田豊(サガン鳥栖)。あのエネルギーと一対一の強さはJリーグでもトップクラスで、両サイドバックをこなせる点も魅力なんですが…。

続いて、LWBで言うと、必ず触れておかなくてはならないのがベガルタ仙台の永戸勝也ですね。

開幕戦から13試合連続で出場していましたし、あの大怪我さえなければ、ルーキーイヤーの選手の中ではトップクラスのシーズンを送っていたと思います。

彼と言えば、クリスランのスーパゴールを演出したアシストが注目を集めましたが、個人的にはクロスの精度よりもその球質と空間把握能力にポジティブな印象を持ちました。

ターゲットのスピードをあまり緩ますことなく、深い位置からアーリークロスを送ることはそう簡単ではないですが、それをいとも簡単にやってしまいましたからね。味方がトラップもしやすい球質のように見えましたし、本当に出し手としてのセンスは凄まじいものがあると思います。

ハイプレスがかかった状態ではまだまだ精度が落ちますが、プレー判断は日に日に早くなっていくものですし、復活してくれるであろう来季が楽しみです。これを機に、「怪我の多さ」も克服して欲しいですね。

ということで、ベスト5はこんな感じにしました。

1位:丸橋祐介(セレッソ大阪)
2位:車屋紳太郎(川崎フロンターレ)
3位:山本脩斗(鹿島アントラーズ)
4位:太田宏介(FC東京)
5位:山中亮輔(横浜F・マリノス)

vol.2に続く。

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