「家事ハラ」から「仮面夫婦」に至る4つの危機要因

家事が不慣れな夫への、妻の「家事ハラスメント」発言の問題が話題を呼んでいます。ありがちな夫婦ゲンカの会話には、「仮面夫婦」に至る深刻な4つの危機要因が隠れていることも……。円満な夫婦生活を続けるために、必要な心がけとは?

「家事ハラ」問題は笑えない!?

巷で物議を醸している、妻から家事が不慣れな夫への「家事ハラ」発言問題。主婦として「あるある!」と笑ってしまったものの、一方で、カウンセラーの立場としては「ちょっと待てよ」と立ち止まってしまいました。

パートナーへの不満が募り、嫌味を言ってしまうのはよくあること。とはいえ、何気ない会話で交わされる言葉には、夫婦の関係性がにじみ出てしまうものです。

夫婦ゲンカに潜む「4つの危機要因」

臨床心理学者のゴットマン博士は、崩壊していく夫婦の会話に「4つの危機要因」が見られると言いました。その要因とは「1.非難、2.侮辱、3.自己弁護、4.逃避」であり、この順に相手に及ぼす害が強くなると説明しています。それぞれの要因を、ゴットマン博士の著書『結婚生活を成功させる七つの原則』を参考にまとめてみました。

影響度1:「非難

相手の「行動」に対して文句を言うのは「不満」ですが、人格や能力にまで中傷を広げるのが「非難」です。「お前ってやつは」「あなたって人は」などの発言に注意。

影響度2:「侮辱」

馬鹿にする、皮肉を言う、冷笑する、相手の物真似をする、挑発的な冗談を言う、などの行為。受け手が発言者に嫌悪感を持ったら、「問題解決はまず不可能」とのこと。

影響度3:「自己弁護

弁解や言い訳をすることで、「自分に非はない、悪いのはそっちだ」と主張する。こうした自己弁護をすればするほど、さらなる非難と侮辱を誘い、悪循環に。

影響度4:「逃避」

1~3の会話を何度も経験して相手へのマイナス感情が募り、応答や反論をやめて、黙りこんでしまう。コミュニケーションを拒否し、話し合いにならないレベルに発展。

この夫の家事協力をめぐり、「4つの危機要因」を含んだ夫婦の会話がどのように発展していくのか……、モデルケースを見てみましょう。

「不満」から「仮面夫婦」に至るプロセス

夫の家事のやり方に、「それはそうじゃないのよ」「こうしてほしいって言ったのに」などと、何度も不満を伝えてきた妻。

それでは何も変わらないのが分かると、「あなたって人は……」と、夫の人格への「非難」(影響度1)の言葉が出るようになりました。すると、夫も「何だよ、いつも偉そうに」などと、妻の人格への非難をつぶやくようになります。

その言葉がお互いの苛立ちに火をつけ、妻から「ガキの使いじゃないんだから!」などといった「侮辱」(影響度2)の言葉が放出。夫も「どうせ俺は使えない夫ですよ!」などと皮肉り、侮辱の言葉で応酬。

すると、妻の口からは「結局、私ばっかり苦労してるじゃない!」、夫の口からは「俺は、毎日クタクタに働いて疲れてんだよ!」と「自己弁護」(影響度3)の言葉が出始め、お互いに「自分は悪くない!」「そっちが悪い!」と主張。

上記のような「売り言葉に買い言葉」を続けているうちに、夫婦の心には「この人に何を言っても無駄」「もう口も利きたくない」といった虚しさが積み重なり、主張も反論もあきらめて「逃避」(影響度4)し、仮面夫婦化していく……。

ゴットマン博士によると、「逃避」は新婚カップルには稀で、「非難」「侮辱」「自己弁護」の応酬を、何度も繰り返してきた夫婦に見られるものだと言います。ここまで深刻になると、そこから関係を修復していくのは、非常に骨の折れるものになります。

妻の事情と心情を理解する

こうして夫婦関係を膠着させないためには、事情と心情を理解することが必要です。上の夫婦の会話から、まず妻のそれを考えてみましょう。

夫が家事に協力してくれるのは、ありがたいと思っている。とはいえ、何回も同じことを注意させる夫のやり方を見て、「それ何べんも言ったでしょ!」と度々言わされることに腹が立ち、「ちゃんと聞いてるの?」「適当に聞き流さないで」と不満が募ってしまった妻。その気持ちが、影響度1の「非難」の言葉(「あなたって人は」など)につながり、芋づる式に「侮辱」「自己弁護」「逃避」へと発展してしまったのではないかと思います。

連発する不満は、「適当に受け流さないでほしい」「私の話をきちんと聞いて、ちゃんと対応してほしい」という気持ちの表れです。 「不満」の時点で真摯に対応してもらえなかったせつなさが、夫を責める口調へと発展し、「非難」の言葉の口火を切らせてしまったのでしょう。

一方、夫の方はどうでしょう? 

夫の事情と心情を理解する

夫は、家事に協力するのは当然のことと分かってはいても、妻から「あれして」「これして」と居丈高に指示されたり、「このくらいのこと、できて当然でしょ?」という目で見られるのは、我慢ならないのではないでしょうか?

妻が家事に詳しいのは、幼少期からままごとなどを通じて家事に関心を持ち、同性である母親の家事を、興味深く見つめてきたからでもあるのですが、男性である夫も、同じことに興味を持ち、成長してきたわけではありません。

服のたたみ方、食器の洗い方など、女性なら当然「こうするべき」と感じるポイントに、男性である夫は、まったく無頓着であることも不思議ではないのです。

そんな自分が家事に参加し、(本当は関心がないのに)頑張ろうとしている。「そこに注目して、優しいまなざしを向けてくれたら……」、夫はそんな風に思っているのではないでしょうか?

個性のリスペクトの上に、「夫婦のいい関係」は成り立つ

「夫も家事を協力するのが当たり前」「夫婦はフィフティ・フィフティ」などと、いくら理屈や正論を語っても、夫婦関係がよいものになるわけではありません。

「家事」というテーマを通じて、夫婦がお互いの事情と心情に目を向け、それぞれの個性と、個性に基づいた努力(よその夫、よその妻と比べない!)をリスペクトすること。その上で、相手の心情と希望に真摯に向き合い、対応していくこと。

このベースがあってこそ、「夫婦のいい関係」は成り立っていくのだと思います。

(文:大美賀 直子)

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