筋肉痛の原因・メカニズム……筋収縮による筋線維の傷み修復
筋肉痛のメカニズムは諸説あり、かつては運動したときに体内で蓄積される乳酸によるものではないかといわれていました。しかし最近では、乳酸は疲労物質というより、体内で再利用されるエネルギー源であるとことがわかっています。
運動をすると、力を発揮する上で筋肉が縮んだり伸びたりしますが、現在では、この「筋収縮」によって傷んだ筋線維を修復する上で起こる痛みが筋肉痛である、という説が有力です。
普段使わない筋肉を使ったり、何度も同じ動作を繰り返したりすることで、筋線維が傷んで炎症を起こし、これを修復するための過程で痛みが発症すると考えられています。
こうした過程を経て筋線維は太く強く再生されるため、身体づくりのために行うトレーニングにおいて、筋肉痛は避けては通れないものであるとも言えるでしょう。
「年齢が原因で筋肉痛が遅く出る」は本当か
「年を取ると筋肉痛が遅れて出やすい」と言われることがありますが、これにも肯定、否定ともに議論がなされており、どちらが正しいとは言い切れないのが現状です。
年齢とともに身体を動かす機会が減ってしまいがちであり、久しぶりに運動強度の強いものを行うことで、時間をおいて筋肉痛が出てくることも考えられます。
また、筋肉を構成する筋線維そのものには痛みを感じる神経がありません。痛みは筋線維が傷つき、炎症が広がって痛みを引き起こす神経伝達物質が筋膜に届いてから感じるため、時間差があると考えられています。
日頃から運動習慣がある人の筋肉は毛細血管がよく発達しているため、血液循環によって必要な酸素や栄養素を取り込み、痛みを発する物質を排出する能力も高くなるのですが、あまり運動をしていない人の筋肉は毛細血管の働きも不十分であり、筋線維の修復や痛み物質の除去にも時間がかかるため、筋肉痛の出現も遅れてしまいます。
年齢によるものというよりは運動習慣の有無や運動強度による影響が大きいと考えられます。
筋肉痛が起きやすいのは伸張性(エキセントリック)運動
運動をするときは筋肉を収縮させて力を発揮しますが、これには3つのパターンがあります。
筋肉を縮めながら力を発揮する短縮性(コンセントリック)運動
・重い荷物をもちあげる
・階段を上る
・ダンベルなどを持って力こぶを作る(アームカール)
・登山での登り
筋肉を伸ばしながら力を発揮する伸張性(エキセントリック)運動
・重い荷物を下ろす
・階段を下りる
・綱引きで腕を伸ばしながら耐える
・懸垂で体重の重みを支えながら徐々に腕を伸ばしていく
・下り坂を駆け下りる など
筋肉の長さが変わらない状態で力を発揮する等尺性(アイソメトリック)運動
・腕相撲 ・腕立て伏せの状態をキープ
・体幹を保持するスタビリティトレーニング など
この中で特に筋肉痛になりやすいのは筋肉を伸ばしながら力を発揮する伸張性(エキセントリック)運動です。ブレーキをかけながら力を発揮するような動作のときであり、登山でいえば登頂に向かって登るときよりも、登頂からふもとに戻るときの方がより筋肉痛を誘発しやすいと言えます。
筋肉痛からの回復法……効果的な食事とクールダウンのコツ
身体を動かすと程度の差こそあれ筋肉痛は起こります。しかし、なるべく軽く済ませるための回復法はあります。
運動後の食事は肉・魚・卵・豆類などタンパク質を多く摂る
傷ついた筋線維を修復するためには筋肉のもととなるタンパク質が不可欠ですので、運動後にタンパク質(アミノ酸)を摂取することは、筋肉痛を軽減させる効果があるといわれています。運動後の食事は肉や魚、卵・豆類などタンパク質を多く含むものを選んで摂るようにしましょう。
運動後には適切なクールダウンを行う……ストレッチや入浴等
運動後に適切なクールダウンを行うことで、全身の血流をよくすることができます。これにより毛細血管まで必要な酸素や栄養素が届くようになるため、筋線維のすばやい修復や痛み物質の除去につながります。
ストレッチをして適切に筋肉を伸ばすことや軽くほぐして血流をよくすること、入浴時には湯船につかって身体全体を温めることなども筋肉痛の軽減に役立ちます。
運動後の適切なケアは翌日以降のコンディションに大きく影響します。つらい筋肉痛を少しでも軽くできるように運動とセルフケアは常にセットで行うようにしましょう。
西村 典子プロフィール
20年以上に渡り、スポーツ現場でのトレーナー活動に従事する日本体育協会公認アスレティックトレーナー。NSCA公認ストレングス&コンディショニング・スペシャリスト。選手へのトレーナー活動だけでなく、幅広い年齢層を対象としたストレッチ講習会やトレーニング指導経験も豊富。スポーツ傷害予防や応急処置などの教育啓蒙活動も行い、毎日の健康づくりに役立つ運動に関する情報発信を精力的に行っている。