なぜ打てる捕手は絶滅危惧種に? 今オフ活発な捕手移動、背景に深刻人材不足

日本ハムから中日に移籍した大野【写真:石川加奈子】

今オフ活発な“捕手の移動”、背景に深刻な「捕手の人材不足」

 海外FA宣言をしていた日本ハムの大野奨太が中日に移籍した。一方、日本ハムは巨人から戦力外となった實松一成を育成コーチ兼捕手として獲得。また、同球団はソフトバンクから海外FA宣言した鶴岡慎也を獲得する可能性も高まっている。今オフは捕手の移動が比較的多いが、その背景には、深刻な「捕手の人材不足」があるものと思われる。

 捕手は投手のリードをするほか、守備の要として野手に指令を出し、さらに盗塁も阻止する。その仕事は多様ではあり、同時に打者として打線に組み込まれる。しかし、守備やリード面はともかく、当代の捕手たちで打者としてチームに貢献する選手は非常に少なく、そのために打線に穴が開くことが多い。また貧打の捕手は代打を出されることも多く、安定した起用ができない。

 12球団の捕手の打撃成績を見てみよう。以下が一覧。(※捕手以外での出場した際の成績も含む。今季捕手登録だが、38試合中12試合しかマスクをかぶっていない西武・森友哉と73試合中1試合の阪神・原口文仁の成績は加算せず。RCは安打、長打、四死球、盗塁、犠打犠飛などを含むオフェンス面の総合指標)

〇パ・リーグ
1ソフトバンク 413打93安9本43点 打率.225 RC 44.22
2西武 421打101安5本39点 打率.240 RC 40.88
3ロッテ 426打94安6本43点 打率.221 RC 35.70
4楽天 401打76安5本36点 打率.190 RC 34.35
5オリックス 436打83安6本43点 打率.190 RC 30.02
6日本ハム 430打87安5本32点 打率.202 RC 29.27

〇セ・リーグ
1広島 477打120安9本52点 打率.252 RC 49.57
2ヤクルト 504打114安5本42点 打率.266 RC 48.36
3DeNA  516打116安12本68点 打率.225 RC 43.69
4阪神 436打94安6本55点 打率.216 RC 41.95
5巨人 464打98安6本38点 打率.211 RC 37.62
6中日 419打82安3本29点 打率.196 RC 30.34

規定打席到達は2選手のみ、各捕手の打撃成績は?

 RCは中軸打者であれば100、レギュラー選手では60以上が目安になるが、12球団で、捕手のRCが50を超えるチームはない。本塁打、打点もDeNAの12本68点が最多。RCで12球団最下位の日本ハムと、下から3番目の中日で捕手の移動があったのは今の「捕手の人材不足」を象徴している。

 打てる捕手は12球団を見渡してもほとんどいない。捕手のRC20傑。

1中村悠平(ヤ)419打102安4本34点 打率.243 RC 44.53
2會澤翼(広)287打79安6本35点 打率.275 RC 36.51
3田村龍弘(ロ)311打77安3本36点 打率.248 RC 32.09
4嶋基宏(楽)281打56安3本28点 打率.199 RC 29.81
5甲斐拓也(ソ)207打48安5本18点 打率.232 RC 27.78
6小林誠司(巨)378打78安2本27点 打率.206 RC 27.08
7炭谷銀仁朗(西)267打67安5本30点 打率.251 RC 27.07
8戸柱恭孝(De)336打72安9本52点 打率.214 RC 25.87
9梅野隆太郎(神)282打58安2本33点 打率.206 RC 22.73
10松井雅人(中)208打46安2本17点 打率.221 RC 19.53
11伊藤光(オ)196打37安5本23点 打率.189 RC 18.10
12大野奨太(日)154打34安3本13点 打率.221 RC 16.05
13坂本誠志郎(神)113打28安2本17点 打率.248 RC 14.40
14岡田雅利(西)144打33安0本9点 打率.229 RC 13.89
15嶺井博希(De)121打30安3本12点 打率.248 RC 13.00
16若月健矢(オ)218打44安1本18点 打率.202 RC 11.71
17高谷裕亮(ソ)175打36安1本20点 打率.206 RC 10.60
18宇佐見真吾(巨)40打14安4本8点 打率.350 RC 10.26
19石原慶幸(広)147打30安1本12点 打率.204 RC 6.80
20鶴岡慎也(ソ)28打9安3本5点 打率.321 RC 6.33

 規定打席に達したのはヤクルトの中村と巨人の小林だけ。中村は25位、小林は最下位の28位だ。本塁打と打点はDeNA戸柱の9本、52打点が最多。中軸を常時打つような捕手は皆無だ。

なぜ「強打の捕手」は急速にいなくなったのか―、球団が抱えるジレンマ

 少し前まで、NPBには強打の捕手が常に何人かいた。一昨年まで巨人の正捕手だった阿部慎之助は、2000本安打、300本塁打、1000打点を記録。巨人史上最強の捕手だったが、一塁にコンバートされた。同じく巨人の捕手で、今季で引退を表明した相川亮二は横浜時代の2008年には打率3割をマークしたことがある。21世紀に入ってからでも、古田敦也、矢野耀大など中軸を打った捕手がいた。

 なぜ、こうした「強打の捕手」が急速にいなくなったのか――。「打撃のいい捕手が見当たらない」という根本的な問題もあるが、それに加えて「打撃のいい捕手はコンバートする」傾向にあることも一因だろう。巨人の阿部は、十分に捕手としての実績を積んでからの配置転換だが、日本ハムの近藤健介、西武の森友哉、阪神の原口文仁のように、若手のうちに1度コンバートされるケースが目立つ。しかし3例とも、コンバートされた選手が怪我、故障、不振でレギュラーに定着できず、彼らに代わる捕手も育っていないというジレンマに陥っている。

「強打の捕手」が、攻守ともにチームを牽引する存在であることを考えれば、各球団は本気でこの育成を目指すべきだろう。

 今季は広島に広陵高校の中村奨成という打撃に定評のある捕手がドラ1で入団した。同選手をはじめとする有望な若手捕手を安易にコンバートすることなく、大黒柱となる「強打の捕手」へと育ててほしいものだ。

(Full-Count編集部)

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