ドローンの未来を垣間見る~KDDIスマートドローンの「凄いメンバー」たち~ モバイル通信ネットワークと3次元地図を活用した完全自律飛行に成功したKDDIの「スマートドローン」は、これからどこに向かうのか。実験に参加したメンバーを中心としたパネルディスカッションから、その未来を考察する。

KDDIが目指すドローンインフラと事業化への期待

 パネルディスカッションでは、KDDI株式会社の山本泰英執行役員常務がファシリテーターを務め「スマートドローン」の実証実験に参加したメンバーとドローンインフラの今後が語られた。最初に山本氏は、完全自律飛行の実験に成功したことで、これからドローンはどのように進化し事業化を実現するのか、各パネリストに尋ねた。

KDDI株式会社の山本泰英執行役員常務

 株式会社ゼンリンの藤沢秀幸上席執行役員は「ドローンの飛行に人手をかけないことが重要」と指摘する。また「事業として取り組んで、コストを低減するには、自動運転が必要」と補足し、そのためには、3次元の地図情報だけではなく「気象情報とUTMとの電波によるやり取り」が自律飛行には必須だと話す。さらに「ドローンを安全に飛行させるためには、あちこちから、じゃんじゃん飛んで来るのではなく、ある程度のルートの中に、ある程度の種別のドローンが飛行することで、事業として成り立つ」と予見する。

株式会社ゼンリンの藤沢秀幸上席執行役員

 ドローンを設計し製造する株式会社プロドローンの菅木紀代一取締役副社長は、これまでに100種類を超える機体を設計してきた実績を踏まえて、今後のドローンでは「より賢い頭脳と視力2.5とか3.5の目。それに、少し風が吹いただけでも感知できる敏感な肌」のようなセンサーに「ちょっと蹴飛ばしても丈夫な足と手のようなメンテナンスフリー」を実現したいと語る。より大きな構想としては「優秀な半導体を使って、30m離れていても充電できる電磁波や無線充電、あるいは飛びながら充電するなど、電池の部分も含めてトータルで進化していきたい」とも話す。

株式会社プロドローンの菅木紀代一取締役副社長

 山本氏が「ドローンの機体の安全性」について質問すると、菅木氏は「昔は物理的な原因での墜落が多かった」と切り出し「モーターが焼けるとか、プロペラにヒビ割れ」などによる墜落の原因を振り返った。そして「最近のドローンは、そのへんは少なくなっている。ウィークポイントは、磁場とか鉄鉱石が多い土地での電磁波などでセンサーがやられての暴走」と指摘する。こうした課題に対してプロドローンでは「3年前から、どうやったら落ちるのかを75項目は検討し、落ち方の研究をしてきた」という。そして「自律飛行するときには、万が一に何かあっても大変なことにならないコース設定が必要」と助言する。

 今回の実証実験に航空管制システムで協力したテラドローン株式会社の徳重徹代表取締役社長は、「三週間をかけてインドと中国とアメリカの現状を視察してきた直後だ」と話し、「海外ではパイプラインの点検やマイニングなど」広域を飛行するドローンの利用が活発だと説明した。土木関連の測量についても「日本と比べて10倍から20倍の広さがあるので、目視外飛行で目に見えないところでいかに効率的に運用するかが重要」で、海外では「すでに実験レベルから対価を得られるレベルに進んできている」と指摘する。さらに「三年後には、地方とか人がいないところでは、目視外飛行は当たり前になるだろう」と予測する。
 徳重氏の指摘を受けて山本氏は「日本は法制度でガラパゴスにならないか」と懸念を示す。

テラドローン株式会社の徳重徹代表取締役社長

 そして、株式会社ウェザーニュースの石橋知博執行役員は「ドローンが気象の情報を知りたいだけではなく、飛行しているドローンも気象情報を知っています。ぜひドローンからいろんな情報をもらえるようになると、好循環が生まれる」とドローンによる気象情報の相互通信の可能性に触れる。

株式会社ウェザーニュースの石橋知博執行役員

凄いメンバーたちが描く日本のドローン産業の未来像

 パネルディスカッションの後半では、当初「目視外自律飛行に向けた課題と抱負」というテーマでの議論が予定されていた。しかし、山本氏は「話題を変えて、この凄いメンバーで情報が双方向に流通し始めると、凄いことができるのではないか」と提案し、各メンバーに今後の日本のドローン産業と相互協力への期待を語ってもらうことにした。

実証実験で使われたドローン

 まず、プロドローンの管木氏からは、ゼンリンの藤沢氏に対して「GPSが届かなくても、3Dマップをドローンの頭に放り込んで、地図だけ見て行きます。みたいなことがしたい」という期待が寄せられた。さらに「そのためには、テラドローンにそんな3Dマップに対応したプログラムだけではなく、ビルの谷間の風とかドローンの飛んでいるときの風速と風向がわかる飛行管制を実現して、安全性を向上したい」と語った。

今回の実証実験の飛行ルート

 一方で菅木氏からの「乱気流の情報は地図にのるのか?」という問いかけに対して、ゼンリンの藤沢氏は「3Dモデルデータは、建物やビルとか気流の変化のシミュレーションでよく使う。ドローンならではの、飛行中に取得した情報を使うような新しい仕組み作りは、空の地図とは違うが、情報の統合で見えるようになるのではないか」と話す。また「より発展していく機体には期待したい」とも述べ「何かの課題を解決するドローンとインフラと情報をマッチングさせたい」と展望を語った。

ゼンリンの取り組み

 ドローンのビジネスについて徳重氏は「スピード感と世界的な視点」が重要だと指摘し「ドローンの業界は、グローバルで考えなければならない。もの凄く速い」と話す。そして「目視外飛行とか管制飛行は規制がネック」だと提言する。そこでテラドローンでは「アジアなどの新興国は規制がゆるいので、海外で実験を繰り返し、そこでPDCAを改善してアジアで進化したものを規制が緩和された頃に、日本の市場にミートさせていく」と計画している。

プラットフォームとしての事業化を推進するKDDIのスマートドローン

 ビジネスの可能性については、マグロ漁で使われているヘリコプターの例が紹介された。イワシが集まる海中にはサバが引き寄せられ、そのサバを餌にするマグロが寄ってくることから、マグロ漁ではイワシを狙う鳥をレーダーの代わりにして船を移動するという。しかし、鳥レーダーは外れることもあり、資金のある船は小型のヘリコプターとパイロットをチャーターして、マグロの存在を空中から確認する。そのコストが年間で一億円ほどかかることから、その用途をドローンで置き換えられるようになれば、小型の漁船でも利用が拡大するのではないか、という期待が語られた。そして、より具体的な取り組みとして、映像を送信する電波をデジタルではなくアナログにも切り替えられるようにして、画像が乱れても途切れないようにしてほしい、という要望も出た。一連のディスカッションを聞いていた山本氏は、最後に「ドローンの未来が垣間見られた」という感想を述べた。

KDDIの通信網が結ぶ日本のドローン産業のキーパーソンたち

KDDIのスマートドローンが集めた凄いメンバーたち

 一連のパネルディスカッションを聞き終えて、スマートドローンの事業化について担当者に問い合わせたところ、通信回線としての収益を目指そうとすれば、一万台を超えるドローンが飛行しなければ、通信事業者としての収益は見込めないという。そこで、今回の発表会で紹介されたメンバーが中心となり、まずはドローンを定期的に飛行させるインフラ作りを目指していく計画だ。今回の発表会には隣席していなかったが、実証実験で使われたプロドローンの「薬剤散布」機は、スカイマティックスが農業用に開発を依頼したモデルになる。またゼンリンでは、東京電力と協業して高圧線の上空を飛行ルートにする計画を推進している。今回の実証実験による座組は、ある意味でKDDIのスマートドローンが国内の有力なドローン事業者を結びつける役割を担ったものだ。約6KMという距離を飛行管制システムにより完全な自律飛行に成功したことで、ドローンの自動運行に向けた事業化の道が拓けた。また実験動画を見る限りは、小さな円を認識して正確に充電ステーションに離着陸したプロドローン製ドローンの飛行性能の有能さも伺い知れる。プロドローンでは、フライトコントローラーも含めて、より高精度な飛行のための開発を推進していく計画で、KDDIのスマートドローン事業は、収益に向けたビジネスモデルの実現に一歩前進したといえる。

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