「受精卵凍結」で妊娠は"先延ばし"できる?

妊娠可能な年齢を“先延ばし”にする方法として「卵子凍結」が話題になっていますが、結婚していれば「卵子凍結」より確実な「受精卵凍結」という方法が選択可能です。両者の違いと、どのようなケースで受精卵凍結が有効なのかを解説します

卵子凍結と受精卵凍結の違い

妊娠可能な年齢を"先延ばし"にする方法として「卵子凍結」が話題になっていますが、結婚していれば「卵子凍結」より確実な「受精卵凍結」という方法が選択可能です。両者の違いと、どのようなケースで受精卵凍結が有効なのかを解説します。

「卵子凍結」は、未受精卵つまり卵巣からとった「卵子」をそのまま凍結する方法です。若くして病気の治療のために卵巣機能を失う可能性が考えられる人に対して、将来の妊娠の可能性を残すために開発された技術です。最近は、キャリア女性が将来の妊娠に対して「保険をかける」意味で卵子凍結する事例も増えているようですが、日本では凍結卵子での妊娠率はまだ低く、また卵子を採取する年齢が高すぎると凍結してもあまり意味がない場合もあるため、確実に将来の妊娠の可能性をキープすることにはなりません。

一方、「受精卵の凍結」(医学的には杯凍結と言います)は、不妊治療の目的で開発された技術です。体外受精を行う際に受精卵が複数できた場合に、1回の体外受精で使うのは1個の受精卵のみにして、残りの受精卵を次回以降にとっておくための方法です。

卵子凍結と異なり、技術的にも安定しており、受精卵は数年間凍結していても新鮮な受精卵と比較して妊娠率が下がらないことも確認されています。また、すでに受精が成立した状態で凍結するので、卵子凍結と異なり「解凍した後に受精するかどうかが分からない」という不確実さがなくなります。

受精卵凍結を考えた方がよいケース

受精卵凍結を行うためには、婚姻関係にあるパートナーがいてそのパートナーの同意が得られていなければいけません。卵子凍結ほどではありませんが、体外受精にはそれなりの費用がかかります。それらの条件をクリアできるのであれば、以下のようなケースでは受精卵凍結を視野に入れるとよいでしょう。

1) 病気の治療のために卵巣機能を失う可能性がある場合

妊娠はまだ先と考えていたけれど、がんなどの病気が見つかって治療をしなければいけないというケース。抗がん剤など、治療の内容によっては卵巣機能が失われてしまうことがあるので、治療前に卵子をとって受精卵を作っておけば、安心して治療を受けることができます。

2) 妊娠しようと思ったら治療が必要な病気が見つかった場合

大きな子宮筋腫があって、妊娠前に手術が必要になってしまったり、内科的な病気が見つかってコントロールが良好になるまでは妊娠を控えなければならないといったケースです。すぐに妊娠を目指すことができないけれど、妊娠許可が出るまで待っていると加齢が気になるという場合に、まずは受精卵を作っておくことで時間を気にせず治療に臨めるようになります。

3) 仕事の都合ですぐには妊娠できない場合

結婚は30代だけれど、40歳過ぎまで妊娠は目指せそうにないというケースです。まずはできるだけ若いうちに受精卵を作っておけば、仕事が落ち着いてからゆっくり妊娠を目指すことも可能です。

凍結後の問題点

一番問題となりうるのは、凍結後にパートナーとの関係が解消された場合です。離婚や死別などで、パートナーがいなくなった時に、その凍結受精卵をどうするのかをあらかじめ決めておく必要があります。

また、受精卵は何年先でも使用可能ですが、母体の年齢的に受精卵を戻すリミットをどのように設定するかも意見の分かれるところです。日本産婦人科学会では、卵子凍結を行った場合の使用年齢の上限を45歳までとしています。凍結受精卵での妊娠も、それと同様に45歳くらいまでをリミットと考える必要があると思われます。

(文:清水 なほみ)

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