ベトナムリーグ唯一の日本国籍選手、フェアー・モービーを直撃取材

タイをはじめとする東南アジアにおいて、日本人サッカー選手がプレーするのも珍しくなくなった昨今だが、そんな中、過去の歴史を見ても極端に日本人選手が少ないのがベトナムである。今回は、“日本人選手不毛の地”とされるベトナムプロサッカーリーグ(Vリーグ)で現在、唯一の日本国籍選手としてプレーするフェアー・モービーに話を聞いた。

アメリカ、日本、スイス、三重国籍のフットボーラーがベトナム移籍に至るまで

-モービー選手は、アメリカ生まれの日本育ち。スイス人のお父さんと日本人のお母さんを持ち、ご自身は三重国籍ということですが、ベトナムに移籍するまでの経緯を教えてください。

「18歳の時にメジャーリーグサッカー(MLS)でプレーしていて、今思うと、かなり恵まれた環境にありました。それから日本に戻ったんですが、時期も悪くて、なかなか所属先が見つからず、相模原に入団することになり、そこで2シーズン過ごしました。ただ、いつまでもJ3にいたいとも思わなかったので、これからどうしようかと考えていたところに、ベトナム移籍の話が舞い込んできたんです。ベトナムサッカーについて全然知らなかったし、とりあえず練習参加だけでもしてみようと。そしたら、みんな想像以上に技術があって、注目度も高いクラブだったので、ここだったら、自分が再スタートするのに最適かもと思って、移籍を決めました。」

-一時期、スイスのクラブにも所属されていましたよね?

「スイスでは、U-17アメリカ代表として出場したU-17ワールドカップが終わった後、FCバーゼルのU-21チームと半年だけ契約しました。実は、父がバーゼル出身で、子供のころから里帰りのときに、バーゼルの下部組織で練習参加させてもらっていたんです。」

各国リーグを渡り歩いた印象…日本人選手は上手いが、メンタルが弱い

-これまで、ご自身のルーツである日本、アメリカ、スイスのクラブを経て、現在はベトナムでプレーしているわけですが、各国のサッカーの特徴や違いについて、感じていることがあれば教えてください。

「バーゼルでは、セミプロ契約だったので、トップチームにいたわけでもないですが、やっぱりスイスのトップクラブで、チャンピオンズリーグにも出場するようなクラブですから、施設も本当に充実していました。ここで感じたことは、選手たちが練習だと少し手を抜いているふうなんですけど、試合になると、顔つきが変わるんです。そういう切り替えが出来るのがすごいと思いましたね。」

「初めてプロ契約をしたのは、アメリカのポートランド・ティンバーズですが、MLSは施設に関して言えば、世界トップクラス。ロッカールームも豪華で、サウナやジャグジー、プールも当たり前のようにありますし、環境面は本当に恵まれています。サッカーの面について言うと、僕のチームは、当時の監督が組織的なサッカーを重視する人だったので、少し日本と似たところがありました。」

「日本では、所属していたのがJ3昇格初年度の相模原だったので、それまでと環境がガラッと変わりました。一応、Jリーガーではあったんですが、専用の練習場もなくて、レンタルしたグラウンドを3か所くらい転々としている状況でした。ただ、そんな環境でも、日本の選手はサッカーの技術的には、かなり高いというのを改めて認識しました。みんながみんなサッカーを知っているというんでしょうか…。でも、やっぱり足りない部分もあって、選手からメンタルの強さがあまり感じられず、ここぞという場面での勝負強さに欠けるという印象を持ちました。」

「ベトナムは、基本的な技術があって、戦う気持ちについては、日本人選手よりも持っていると思います。選手たちからハングリーさを感じますよね。戦術的には、ロングボールを蹴るチームが圧倒的に多いんですけど、そんな中でも、HAGLはパスサッカーにこだわってます。施設もベトナムの中では、良い方だと思うし、このチームに移籍できたことは運が良かったです。」

現所属クラブはベトナム代表選手だらけ。元Jリーガーも…

-現在、所属するHAGLについて、もう少し教えてもらえますか?

「聞いたところによると、3年ぐらい前に、ベテランから一気に下部組織出身の若手に切り替えたんですよね。今はスタメンの平均年齢が21、22歳でとても若いチームです。僕も22歳だから同年代なんですが、外国人助っ人として来ているわけで、みんなよりも声を出すように意識してます。チームスタイル的には、HAGLの選手は幼い頃からパスサッカーを徹底的に教え込まれているので、ボール回しに関しては、日本のチームと比べても、うまいなと感じます。あとはフィニッシュまで、どう繋げるかがうちのチームの課題ですね。」

-チーム内では、どんな役割が求められていると感じますか?

「センターバックとして加入したので、前期シーズンでは、相手のロングボールをとにかく跳ね返す役回りでした。ベトナムは、185cm以上の外国人フォワードを前線に置くチームばかりで、それを止めるのが僕の仕事です。ただ、僕もセンターバックとしては、それほど大柄でもない(182cm)ので、最初はかなり苦労しました。後期シーズンからは、特徴であるロングボールの精度を活かせるボランチで起用されています。あとは、助っ人なので、リーダーシップを発揮することも求められていると感じます。」

-HAGLには、昨年までJ2でプレーしたグエン・コン・フオン(元水戸)とグエン・トゥアン・アイン(元横浜)がいます。他にもベトナム代表に選ばれている若手がたくさんいますが、彼らの印象を聞かせてください。

「候補も含めて、ベトナム代表クラスが7人ぐらいいると思うんですけど、コン・フオンとアインはシンプルに上手いという印象です。ただ、僕から見て、試合中にすべてを出し切れているかというとそうでもない。彼らは、これからのベトナムサッカーをリードしていく存在なので、その部分をもっと変えていかないといけないと思います。」

外国人助っ人として戦ったVリーグ初シーズンを振り返って…

-今シーズンも残り僅か(インタビューは11月上旬)となりました。現時点でHAGLは、14チーム中11位につけています。少し早いですが、Vリーグ初シーズンを振り返ってみた感想を聞かせてください。※最終的に14チーム中10位でフィニッシュ

「チームとして、非常に波があるシーズンでした。開幕3連敗からの3連勝。5戦負けなしだったかと思うと、4連敗。安定感に欠けたのが、現在の順位に表れています。個人的には、助っ人として、1シーズン戦ったことで、Jリーグでは味わえない経験が出来ました。チーム事情から色々なポジションで起用されましたし、選手としても、人間としても、成長したと感じるシーズンになりました。」

-Vリーグで対戦した中で、最も印象に残っている選手は?

「コイツは別格だっていうのはないですけど。ハノイFCのサムソン(※ナイジェリア出身の帰化選手)は、対峙してみてやりづらい相手でしたね。アフリカ人選手特有のフィジカルの強さや一瞬の速さがあるし、ここは届かないだろうというところに足が出てくる。」

異国での日常生活の過ごし方と今後の目標

-ベトナムでの生活について教えてください。練習がないときは、何をして過ごしているのでしょうか?

「ホームタウンのプレイクには、本当に娯楽的なものは何もないです(笑)。でも、コーヒーが有名で、カフェが100軒ぐらいあるのかな。だから、オフの日はコーヒーを飲んで、部屋に帰って、あとはひたすらネットフリックス。それが僕のベトナムの日常です。」

-今年の12月で23歳になる、まだ若いモービー選手ですが、今後の目標は何ですか?

「とりあえず代表チームに復帰したいです。U-17、U-18、U-20とアメリカ代表に招集されたので、アメリカの方が友達は多いですけど…三重国籍だから、もし呼んでもらえるなら、どこの国でも行きます。ただ、目先の目標としては、リーグのステップアップですかね。この2、3年のうちにヨーロッパに移籍できればいいなと思っています。」

-将来移籍するとしたら、ヨーロッパでは、特にどこのリーグに興味がありますか?

「イタリアとオランダのリーグが好きです。特に、組織的な守備のイタリアは、子供のころからずっと憧れていたし、自分のスタイルにも合っていると思うので、一番の目標にしています。」

フェアー・モービー(Mobi Fehr)

生年月日:1994年12月13日

ポジション:センターバック

所属クラブ:

2010~ 2011 東京ヴェルディユース

2012 FCバーゼル U-21

2013 ポートランド・ティンバーズ

2014~2015 SC相模原

2016 ホアン・アイン・ザライFC

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